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2016/10/04

misc.ノーベル賞受賞者が科研費について述べること

文科省の皆さんには是非読んでいただきたいが、ノーベル賞を受賞された大隅先生が「私と科研費」に寄稿されて、現在の研究行政の貧困について語られている。

「科研費について思うこと」

大隅 良典
東京工業大学 フロンティア研究機構 特任教授

平成27 年度に実施している研究テーマ:
「オートファジーの分子機構の解明と細胞生理学への統合」(特別推進研究)

科研費により支えられてきた研究であって感謝に耐えないことを述べられつつ、このような競争的資金の一方で運営交付金が削減されることの弊害について、以下のように言及されている。

昨今の国立大学法人等に対する運営費交付金の削減と、予算の競争的資金化によって、大学や研究所の経常的な活動のための資金が極端に乏しくなってしまった。運営費交付金はほとんど配分されないため、科研費等の競争的資金なしには研究を進めることは困難である。すなわち、補助金が補助金ではなくなり、「研究費」そのものになっている。さらに、研究科や研究所の経常的な活動の費用を捻出するためには、競争的資金の間接経費が重要な比率を持つようになった。
競争的資金の獲得が運営に大きな影響を与えることから運営に必要な経費を得るためには、研究費を獲得している人、将来研究費を獲得しそうな人を採用しようという圧力が生まれた。その結果、はやりで研究費を獲得しやすい分野の研究者を採用する傾向が強まり、大学における研究のあるべき姿が見失われそうになっているように思える。このことは若者に対しても少なからず影響があり、今はやりの研究課題に取り組みたいという指向性が強くなり、新しい未知の課題に挑戦することが難しいという雰囲気をますます助長している。結果的に、次代の研究者はますます保守的になって新しいものを生み出せなくなってしまうのではないだろうか。

科研費等の取得が採用人事にも影響を与えているというのは、直接的にそのように言えるかどうかは分からないが、研究をするのに競争的資金が欠かせないとなれば、優れた研究をするにはどうしたって科研費等の採用につながりやすいテーマを選ぶということになる。

それでは、30年経って真価が発揮されるような基礎的研究を正しく評価することはできない。
そのような研究環境では、今、日本人がノーベル賞を多く受賞して素晴らしいと喜んでいる間に、研究の基盤が掘り崩され、将来花を開く可能性を摘み、他の研究環境が整った国々に追い抜かれ、やがては他の国のノーベル賞ラッシュの報を横目で見て妬んだり、過去の栄光にすがってヘイトスピーチに走ったりする羽目となる。
この道は、日本企業とか、数々のスポーツとかで辿ってきた道であろう。

大隅先生は、さらに研究費の目的外使用を制限することの愚や、間接経費と引き換えに削られている研究機関の設備用の予算の問題を指摘されている。
これに加えるとすれば、研究組織を支える職員や若手研究者の人件費を削って非正規雇用に置き換えざるを得ない状況にしている愚を忘れてはならない。

確かに、研究の評価は折々でせざるを得ないし、若手だからといってそのときにやっている研究が他人の評価にさらされることを免れることはできない。研究評価はそう簡単なものではないにも関わらず、研究に他人の評価を受けざるを得ないという点で、ここには隘路がある。研究機関としても、研究者個人としても。

その結果、研究者個人に対しては、マックス・ウェーバーが書いた職業としての学問 (岩波文庫)の内容が今でも当てはまる。
しかし、その隘路の弊害を多少なりとも緩和するためにも、研究機関のインフラを維持することは必要だ。


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