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2016/10/18

arret:弁護士会照会を拒絶しても弁護士会に対する不法行為とはならない(京野弁護士の解説追記あり)

最判平成28年10月18日判決全文PDF

最高裁は、かねてから問題となっていた弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会(23条照会と呼ばれる)に正当な理由なく報告をしなかった照会相手方の弁護士会に対する不法行為責任の成否について、以下のように判示し、不法行為責任が生じないことを一般的に宣言した。

これには二人の弁護士出身の裁判官が補足意見をつけているが、反対意見はついていない。

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23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。

したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。

この最高裁の判断は、従来の下級審で分かれていたところに決着をつけたという重要な意義を有する。
この判決の原審判断については、このブログでarret:弁護士会照会に報告を拒絶したことが違法として損害賠償が認められた事例で紹介し、説得力ある判断と評価していたところなので、最高裁が原判決を破棄して自判したことは残念だが、不法行為によることの無理さということには賛成せざるを得ない。

最高裁は、不法行為責任は否定したが、その理由は「報告を受けることについて弁護士会に法律上保護された利益がない」というにあり、紹介を受けた相手方が報告をすべき「義務」があることについては積極的に認めているということができる。この部分は、注目して評価すべき点である。

さらに、予備的な報告義務確認請求に関しては、差し戻して原審が審理すべきだというのであるから、少なくとも訴えの利益は認めているように推測される。

ということで、不法行為という公法上の義務とは本来なじまないやり方でサンクションを課すことは否定されたが、義務の存在自体は否定されなかったのであるから、次は、その公法上の義務の履行を確保するのにふさわしい強制措置を、立法を通じて建てていくということが必要となる。弁護士会の役割ということができよう。

例えば、過料の規定を設けるとか、公法上の義務履行訴訟のようなものを想定するとか。
あるいは、受任した事件に関しての照会であるから、提訴予告通知を前提とした証拠収集処分としての調査嘱託に接続して、これに制裁規定を付けるとか、立法論としては色々なやり方が考えられそうである。

追記:最高裁の法廷を傍聴された京野垂日弁護士がフェイスブックに挙げていた解説を、本人の許可を得たので転載する。

最高裁第3小法廷平成28年10月18日判決について

 まず,判決は,4のところで「23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される」としています。

 この部分は,最高裁が初めて報告義務を認めた部分になります。前科照会事件では,なかった判示になります。

 つぎに,本件判決は弁護士会が報告を受けることについて法律上保護される利益を有するものではないと,残念な判断を示しています。

 しかし,これは最高裁として弁護士会が回答拒否に対して不法行為を根拠に賠償請求することはできないと判断したにとどまり,依頼者,申出弁護士との関係で不法行為責任が生じるのかどうかについては判断していません。

 むしろ,岡部補足意見からするならば,不法行為上保護される利益が侵害される場合には賠償責任が発生する可能性があります(木内補足意見もその点を否定する趣旨とは読めません)。
 
 この点,名古屋高裁の事案では弁護士会と依頼者が当事者となっており,依頼者部分については上告受理されなかったではないかとの指摘もあるところかと思いますが,これはあくまで上告審として今回は受理しなかっただけで,判断を示した訳ではありません。

 そのため,今後最高裁が依頼者ないし申出弁護士との関係で不法行為責任を認めたからといって,判例変更が必要になるようなものではありません。
 
 むしろ私には,立法趣旨からして弁護士会が主体であるかのような判断は違う,あくまで申出弁護士,依頼者が主なのだと判断し,これまでの下級審の判断を牽制しているように見えます(うがった見方かもしれませんが)。
 
 いずれにせよ,弁護士会照会に回答しなかったからといって損害賠償請求を受けることはないといった判断をしたものではありませんので,誤解が生じないように注意が必要だと思います。特に,照会を受けた照会先から助言を求められたような場合に間違った説明をしないよう注意が必要だと思います。
  
 なお,確認請求については引き続き名古屋高裁で審理されることになります。仮に確認の利益が認められることになると,回答を得るのが困難な類型で一つの方策ができることになります。この手法が認められると損害賠償請求をしていくよりは,弁護士会にとってもやりやすいかもしれません。

 この点は引き続き注目していきたいと思います。
 
 なお,本判決では弁護士会が照会を行うことについて,「飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎない」としていることから見逃されがちですが,逆に言うと,弁護士会には「個々の弁護士の申出が」「制度の趣旨に照らして適切であるか否か」を判断する職責があることを示しています(「公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み」とわざわざ記載してもいます。)。この点は,照会に応じて回答した照会先が責任を問われるようなケースにおいて免責を肯定する方向に働くのではないかとも考えられます。

 上記の私のコメントでは、受任した弁護士または依頼人の利益侵害になりうるかどうかについて、最高裁が触れていなかったので、言及はしなかった。もちろん、京野弁護士が指摘するとおり、その点を最高裁が否定した趣旨は判決文に含まれていない。
 本エントリの表題も「弁護士会に対する不法行為」と限定したところである。

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