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2016/10/30

arret:最高裁が括弧書きで実務運用を指示した事例

最決平成28年10月25日決定全文PDF
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決定文は、いわゆる三行半だが、括弧書きの指摘がついている。

本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない(なお,原々審の裁判官が,検察官の意見書について,弁護人に謄写を許可しなかった点は是認できない (最高裁平成17年(し)第406号同年10月24日第二小法廷決定・刑集59巻8号1442頁参照)。)。

結論は抗告棄却なのだから、括弧書きの部分は結論命題でもそれを直接導く理由付け命題でもなく、いわゆる傍論的な判示であるのだが、裁判所サイトの要旨には、以下のような記載となっている。

公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した保釈請求に対する検察官の意見書の謄写を許可しなかった裁判官の処分が是認できないとされた事例

法情報学の授業で取り上げることだが、最高裁判所が判決(決定)理由の中で、傍論的な判示をして、そちらの方が重要視されることは時々ある。

今回のような括弧書きで重要な内容を判示し、それが後に至るまで重要な裁判例として残っている有名な例は、いわゆる朝日訴訟(最大判昭和42年5月24日民集21巻5号1043頁)である。生活保護受給権は反射的利益ではなくて権利だけれども、一代限りで子どもに相続されないから、本人が死んだら訴訟は終わり、というのが判旨であるのに、その後に括弧書きで、「なお、念のために、本件生活扶助基準の適否に関する当裁判所の意見を付加する」として、延々と憲法25条は具体的権利を定めたものではないと論じて、その部分がプログラム規定説として定説化している。
ちなみにこの朝日訴訟判決の少数意見をみると、裁判官の間でこの傍論をめぐって激しい意見の対立があったことがうかがわれ、今日の貧困問題とそれに対する政府の責務を考えるにあたって非常に興味深いものがある。

もう一つ傍論が重要な意味を持ったのは、これまた有名なローレンス・レペタ事件である。

法廷で傍聴人がメモをとることを禁止することが違憲違法であるから国家賠償を求めたという事件で、最高裁の答えは憲法がメモをとることを保障しているわけではないし、記者クラブ所属者と一般傍聴人を区別することも平等原則違反にはならないし、法廷警察権の行使としてメモを禁止しても、それが「法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、」国賠問題にはならないというもので、結論は請求棄却であった。

にも関わらず、憲法21条に照らして「裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法廷における裁判を見聞することができるのであるから、傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである」といい、「傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであつて、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべき」だと判示した。
ちなみにその過程では国際人権規約B規約19条も引用されている。裁判規範として認められているわけである。
さらに、法廷警察権の行使として違法かどうかをめぐる議論で、当該事件において一般的にメモを禁止することが「妥当なものとして積極的に肯認し得る事由を見出すことができ」ず、「合理的根拠を欠いた法廷警察権の行使」であり、一般論として以下のように判示する。

裁判所としては、今日においては、傍聴人のメモに関し配慮を欠くに至つていることを率直に認め、今後は、傍聴人のメモを取る行為に対し配慮をすることが要請されることを認めなければならない。

この判示部分は、普通なら補足意見に個人的に書くような内容だが、これを法廷意見としたことで、判決の翌日から全国の裁判所の傍聴人に対する注意事項が書き換えられ、原則メモ禁止から原則メモ許容に、まるでオセロのように切り替わったことは印象的であった。

さらに、最近でも、結論は請求を認めないながら、理由中で憲法違反だと指摘された100日を超える待婚期間の規定について、判決直後から婚姻届の受付事務の変更をもたらしたという事例がある。→最大判平成27年12月16日69巻8号2427頁

この違憲判断が、判例としての(一種の)先例拘束性を持つものかどうか、結論を導き出すに当たって不可欠な判示部分といえるのかどうかは微妙なところがあり、傍論だといい切ることもためらわれるが、少なくとも付随的違憲審査制に徹するのであれば、違憲であっても国賠請求は棄却という場合に違憲判断を示すことは、任務逸脱と評される。
しかし最高裁は、これまで見てきたように、朝日訴訟、レペタ訴訟、そして待婚期間違憲訴訟と、かなり一貫して、結論に不可欠でないところでも重要な法律判断を示してきたし、それが事実上の法改変機能を果たしてきたわけである。

ということで、今回の決定文の括弧書きも、そうした意味を持ちうる。

最高裁がなぜそうした抽象的ともいうべき憲法判断や法的判断をすることができるのか、その権限は何処にあるのかということは重要な問題だが、少なくとも今回の決定のように訴訟手続上の問題については、最高裁規則制定権(憲法77条)が一応の根拠となろう。

さて、法情報学的な考察は以上だが、内容に関しても、この決定は重要なものといえる。
ただ、決定が引用している参考判例は、勾留理由開示の期日調書謄写を不許可にした裁判への不服申立て方法が準抗告ではなく異議であるべきだというものであるから、参照先として適当とは全く思えないのである。

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