arret:インカメラ手続を経て書類提出命令申立てを却下した事例
事案は、原告ドコモが、自社のFOMA通信サービスが被告の特許権を侵害していないことを理由として債務不存在確認を求めたというもので、結論は請求認容判決に対する被告からの控訴を棄却したというものである。
注目点は、判決中でインカメラ手続を経て書類提出命令を却下する判断を下しているところである。
特許法は、民事訴訟法と異なり、文書提出命令とは言わず、書類の提出命令という。
また、その提出を拒む正当な理由は抽象的な規定であり、民訴法220条4号のようなある程度具体的な提出拒絶事由を列挙するものではない。
さらに、インカメラ手続、すなわち提出拒絶事由の有無を審理するに際して担当裁判所だけに文書を提示する手続では、提出を求めた当事者も交えて検討するという特則がおかれている。
こうした違いがある知財訴訟上の文書提出義務の有無に関して、上記の判決では証拠調べの必要性の判断、提出を拒む正当理由の有無に関して証拠調べの必要性との利益衡量にかかること、その上でインカメラ審理を実施して具体的に評価したことが判示されている。
利益衡量に関しては以下の様な一般論を判示している。
正当理由の有無は,開示することにより文書の所持者が受けるべき不利益(秘密としての保護の程度)と,文書が提出されないことにより書類提出命令の申立人が受ける不利益(証拠としての必要性)とを比較衡量して判断されるべきものである。この比較衡量においては,当該文書によって,申立人の特許発明と異なる構成を相手方が用いていることが明らかとなる場合には,保護されるべき営業秘密の程度は相対的に高くなる一方,申立人の特許発明の技術的範囲に属する構成を相手方が用いていることが明らかになる場合には,営業秘密の保護の程度は,相対的に低くなると考えられることから,侵害行為を立証し得る証拠としての有用性の程度が考慮されるべきである。また,秘密としての保護の程度の判断には,営業秘密の内容,性質,開示により予想される不利益の程度に加えて,秘密保持命令(特許法105条の4以下)の発令の有無及び発令の対象範囲並びに秘密保持契約等の締結の有無,合意当事者の範囲,その実効性等を考慮に入れるべきものである。
利益衡量の要素については、知財訴訟の特殊性も含まれているが、一般の民事訴訟でも参考となる判示内容となっている。
なお、文書提出命令制度に関しては、以下の書籍が参考になる。
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