jury: 裁判員の記者会見
<栃木女児殺害>「録音・録画で判断決まった」裁判員ら会見
裁判員の記者会見を沢山見ているわけではないのだが、最初の頃の印象では評議の過程や内容、特に証拠評価に関わる実質的な意見は評議の秘密に触れるとして裁判所職員の検閲に遭っていたと思うが、この記事の裁判員の発言は極めて率直だ。
録音・録画について、70歳代の女性は「決定的な証拠がなかったが、録音・録画で判断が決まった」と話した。別の30歳代男性は録音・録画を評価しながらも、「抜けている部分が多いという印象を持った。もっと公開する範囲を広げてほしい」と指摘。女性会社員も「物的証拠が少なく、(判断が)より難しく感じ、はがゆかった」と語った。評議時間の短さへの指摘も多く、女性看護師は「(読み込む調書の量など)情報量があまりにも膨大で、どう処理していいか分からなかった。振り返る時間がほしかった」と注文をつけた。判決が3月31日から延期された経緯については、裁判官側から「これでは間に合わないので延期できないか」と申し出があったためという。
裁判員の会見では、こういう実質的な中身にかかる話も聞けるという理解をして良いということであろうか。私としては歓迎すべきと考えるが、裁判員の守秘義務の範囲はますます不明確にならざるを得ない。
中身についても、色々感想が浮かぶが、とりわけ、録音・録画の効果の問題が重要だ。
70代の女性の心証を決定づけた取り調べの録音・録画は、検察が証拠とすべく選んだ場面に過ぎない。その裏で何が行われているかは、分からないのである。その点で別の30代の男性が「抜けている部分が多いという印象」を指摘しているのは正当だ。
録音録画問題とは別に、情報量が多すぎて消化しきれない段階で判断を迫られたという点の指摘も、現行の裁判員裁判のあり方の問題性を浮き彫りにしているように思う。
裁判員の都合が優先され、必要な評議、さらには心証形成に要する時間を切り詰めることの異常さ、「時間がないからとにかく分かっても分からなくても判断しろ」と言われる中での裁判の正統性は疑わしい限りだ。裁判員がまだ良くわからないと言っているのに結論を出してしまう審理のやり方を、外国の裁判関係者に率直に紹介したら、呆れ返って「Oh, ニホンノケイジサイバンハチュウセイトキキマシタガ、ホントデスネ」といわれるのではないか。
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