jugement:裁判所側の過失を認めた事例
執行官のミスにより、高値で買い受けることになった競落人が国賠を求めて認められた事例のようである。
判決によると、執行官は12年2月、物件の売却基準価額を決めるための調査報告書に賃料・共益費収入を実情より約1・3倍多く記載。2億9199万円で競り落とした会社側は、不当に高い金額で買い受けて損害をこうむったと提訴していた。

参考文献としては前世紀のものだが、商事法務研究会から逐条 民事執行に関する国家賠償判例総覧という本が出ている。
この種の事案でよくあるのは、占有関係を見誤ったという事例とか、権利関係を誤認した物件目録を作ってしまったなどである。
もっとも公刊された裁判例では、過失が認められて国賠が認容された事例というのはそれほど多くはない。
その中でも次のケースは面白い。
福岡高判平成20年 5月29日判時2025号48頁
これは、熊本の農事組合法人に対する動産執行で、お茶の葉を差し押えて即日競売したというものだが、買受申出人が差押債権者しかいない場合で、しかしお茶の葉は早く処分しないと劣化するという事情があったことを前提に、「実質的には競争原理が働かないような名ばかりの競り売りを実施するのもやむを得ないとすれば,差押物に対する執行官の評価はより公正で客観的なものでなければならず,執行官はそのために必要な調査を尽くすべき注意義務を負っている」と判示した。
この事件では、お茶の葉を計量するのに執行官が手で持って大体30キロと判定するとか、それも一部の袋しか調べないとか、価格評価もスーパーでお茶がいくらで売られているかを調べて、それを根拠として値付けをするなど、著しくずさんな方法で評価を行っていて、それが違法性ありとされたのである。
この事件では、本来いくらと評価すべきところを低く評価してしまったから、その差額が損害となる。しかし、上記の通りの経過で執行官がずさんな評価をしたので、本来いくらと算定されるべきかも分からない。従って損害額は立証困難である。
さて、そのような場合に使わなければならない条文が民訴法にはある。法科大学院生や法学部生の読者がおられたら、是非、その条文を言い当ててみよう。
わからなかったら、上記の判例時報を読んでみると良い。判決文の最後に言及されている。
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