Book:民事訴訟法概論
高橋宏志先生の民事訴訟法の教科書である民事訴訟法概論。400ページで書く民訴の教科書という企画である。
しかし、ただの薄い概説の類というわけではない。高橋先生らしい特色にあふれている。
例えば、末尾に資料として付けられている「民事訴訟手続の円環的構造」と題する図である。この円環的構造という言葉は、私は三ケ月先生の教科書で初めて読んだが、その後自分で講義をするようになって、いつも犬が自分の尻尾を追いかけるような気分になっては思い浮かべる言葉である。
要するに民訴の重要概念の意義は他の重要概念の理解が前提となっていて、相互に関連しているということである。
その相互の関連性を図示したのが、末尾資料である。
また、その直前、つまりこの本の最後の章に出てくるのが民訴の総論であり、この点はご自身も「訴訟と非訟の区別などという専門的技術的な議論を初めに持ってくるのは適当ではない」と理由を述べられている。
思えば、三ケ月先生の法律学全集の教科書は、最初が判決の効力論であり、いわゆる型破りな構成であった。
そのほかにも、学生が陥りそうな誤解可能性のある部分に目配りをして説明をされているところが特徴で、例えば「法人は訴訟無能力と扱われる」とか、「訴訟要件は訴訟の要件ではない」とか、小見出しのつけ方もその狙いが反映しているように見受けられるし、第4章 審理の導入部などは高橋先生のゼミを受講しているような気分になれるところである。
ちなみにその導入部の囲みは、ですます調で私たち読者に語りかけるご案内文というもので、各章に付けられているわけでもなく、ガイドが必要なところに来ると現れる趣向になっていて、最後の頑張りどころとハッパをかけるのが二回出てきたりして、これもまた面白い。
高橋先生の重点講義シリーズも、特に注は高橋ゼミの声が聞こえてくるような語り口(もちろん私は出たことがなく想像だが)だったところ、その雰囲気はこの概論でも十分出てきている。
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