Book:長谷部由起子「民事手続原則の限界」
今年読んだ13冊目。長谷部先生の民事手続原則の限界。
長谷部先生の論文集だが、内容的には文書提出命令に関するものと、民事保全と暫定的実体権に関するものとに大別され、最後に集団的消費者被害回復制度となった集合訴訟立法論に関するものが加わっている。
既存の論文に加筆がされている他、第1章の秘密保護手続と民事訴訟の基本原則は書き下ろしであり、インカメラ審理を情報公開請求訴訟との関係で求めることができるかが問題となった最決平成21年1月15日民集63巻1号46頁を題材として、双方審尋主義、立会権、上訴審の審判といった民事訴訟の基本原則を前提とするインカメラ審理の可否が論じられている。
長谷部先生の結論は、具体的には本書17ページを読んでいただくとして、至極常識的な結論となっているが、そこに至る検討はいつもながらに説得力が溢れている。
この問題、つまりある情報が保護されるべき秘密かどうかの判断にあたっては、当該情報の内容自体を見る必要が出てくるが、そうするとその秘密保護に支障が生じ、さりとて見なければ適正な判断は出来ず、判断主体のみが見ることにすれば、双方審尋主義に反するというジレンマ状況は、裁判には限られない。
インカメラ審理では、当該情報を見たことが判断に影響する可能性もあり、その部分についての反対尋問の保障もないという問題があり、この部分だけは陪審と裁判官との役割分担があるところでは回避が一応可能であるが、秘密性判断については、知財訴訟に特則があるような、立会権を認める立法に踏み込むかどうかが問われる。
特定秘密保護法の運用の適正を図るための国会による調査権でも、秘密情報自体を見ることの困難、その情報を特定すること自体の困難など、類似の状況が生じている。
そうした問題にも参考となる論稿である。
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