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2016/03/04

Télérecours:仏行政裁判所のe-filing

フランスには司法裁判所と別系統で行政裁判所が存在するが、特に行政裁判所のためのe-filingシステムがTélérecoursと呼ばれるものである。
ポワチエ大学の行政争訟法の先生のご紹介で、ポワチエ行政裁判所判事に連れられ、所長と主任書記官のtélérecoursに関する説明を受けることができた。

事前に、弁護士会が出している使用マニュアルを読んでいったので、説明はかなり分かりやすいものであった。
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システムの全体は、全国弁護士会評議会CNBが弁護士向けに設けているRPVA(Réseau privé virtuel des avocats)と、裁判所内部のe-filingシステムであるSkipper、そしてその間をつなぐコミュニケーションシステムであるTélérecoursの3つのシステムが組み合わされている。
弁護士にとっては、RPVAから行政裁判所のtélérecoursのみならず司法裁判所のオンラインシステムRPVJにも接続できるので、ログインは一つのセキュリティ・キーですることができるし、また一旦接続してIDを設定すれば、直接télérecoursにも接続できるので、便利である。

このアクセスはインターネット経由で、ID/PWを入力して行うので、事務所からでも自宅からでも、はたまたバカンスで滞在しているホテルからでもアクセスして執務が可能となっている。

アクセス権限があるのは、弁護士、行政庁などの特定当事者、書記官、そして裁判官であり、それぞれにインターフェースが異なる。

弁護士が当事者の代理人として使う場合には、まずは申請書(訴状)をtélérecoursの画面上で起案し、これをPDFファイルに転換して送信する。
ちなみに申立手数料は無料化されているということで、郵券とか印紙とかは現在は原則として不要だということだ。かつては一件35ユーロかかったそうだが。

送信すると、直ちに受領通知が送られてくる。これは自動応答メールであり、この時点で例えば出訴期限の経過の有無が判断される。

送られたデータは、書記官が、裁判所内部のe-Filingシステムであるskipperに、申立人の名前や住所など、一部はキーボードからデータを入力し、添付されている申請書がskipperの中に登録される。そして書記官は、この申請内容から裁判官への配点を決定し、skipper上で何部配点という指定を行う。

この時点で、事件記録は当事者(弁護士)からtélérecoursを通じてアクセス可能となる。この事件記録は、最初の申請書、その受領通知送付、配点、相手方当事者への送付、相手方の受領通知、相手方の答弁書提出、各種準備書面および証拠等の文書の提出、そのそれぞれの受領通知など、訴訟行為が行われるごとに履歴が積み重なり、各履歴には書面へのリンクが貼られている。

なお、相手方当事者は行政訴訟であるから、国・自治体の行政庁、公法人、公役務を担う私法人がほとんどで、そのすべてはtélérecoursに登録されているので、これらの者を相手方として提起された訴えは、télérecoursのメッセージング機能によって送達も行われる。

フランスの裁判は、民事裁判でもそうだが、行政裁判でも、証人尋問や本人尋問はほとんど行われない。医療過誤訴訟のような場合も、鑑定が行われることは日本より多いが、鑑定はやはり鑑定意見書の提出ですみ、口頭による尋問はほとんど行われない。ということで、弁論は、日本の刑事裁判と同様に最終弁論である。

やり取りされる書類は、すべてPDF形式で、つまり書類として表示されるので、すべてをプリントアウトすることも可能だが、各裁判官は2台のモニターを支給され、画面上で閲覧しながら別の画面上で執務を行い、コピペも容易なので、判決文を書くにもプリントアウトは必要ないということである。

こうしてe-filingシステム上で書類のやり取りが進められ、弁論がなされると、これに基いて判決を下すわけだが、判決は、手書きの署名が必要であり、従って紙媒体で原本が作成される。この判決は、スキャンして、弁護士にはメッセージング機能を通じて送達がされる。被告の国等はこれで済む。原告の本人に対しては、判決書面が郵便により送達されるので、ここだけは郵便送達が残っている。

控訴審でも、第一審の記録はすべて再利用される。

このシステムは各裁判所にあるわけではなく、パリの中央サーバーにあるので、クラウド・コンピューティングというか、あるいはSNSのようなシステムが実態としては近い。各地の裁判所の書記官は、当事者がアップロードした申請書をメッセージング機能により相手方に送ったり、アップロードされた書類を互いに送付するという言葉を用いるが、実際はサーバー内での操作にすぎず、各当事者が自分に割り当てられた領域でのデータを見に来るのである。従って、送信行為自体は瞬時である。問題は、弁護士、特定当事者、そして各地裁判所からも、パリの中央サーバーへのアクセスとアップロード・ダウンロードとに若干の時間がかかるという点である。

このシステム、現在のところは利用は義務化されていないので、従来通りの紙媒体での申立ても可能である。原則は弁護士強制だが、例外的に本人申立てが可能な場合は、弁護士以外にtélérecoursへのアクセス権がないから、当然紙媒体での申請ということになる。また弁護士の申立てでも一定数は紙媒体申立てが残っているというわけで、全体の申請のうちtélérecours経由の申立ては66%にとどまっているという。
66%というのはずいぶんと高率であろうと思われるが、コンセイユ・デタの旗振り役は、これを100%に持って行きたいという以降だという。

当事者が紙媒体で申請をしてきた場合には、書記官がこれをスキャンして、電子媒体にしてtélérecoursに載せるのだという。この手間が大変だという。
またこのシステム自体は始まって2年であるので、それ以前の旧受事件は全て紙媒体であり、これはスキャンせずに従来通りの紙媒体訴訟手続で行っている。従って現在は過渡期で両方に対応せざるを得ないという。

télérecoursには、上記の通り、訴訟記録の履歴が一覧できる機能があるので、弁護士のようにアクセスが可能であればそれを利用できるが、当事者本人は利用できない。その場合は、基本的には送付された紙媒体を自分で管理しておく必要があるが、従来から行政裁判所にある当事者向けのオンライン記録閲覧システムSAGACEが運用されていて、これを利用すれば良いということであった。これは当事者本人でもアクセスできる。

当事者(弁護士)は膨大な書類を、副本も付けて、提出しなければならないとか、ポワチエのように裁判所が地元にあればともかく周辺都市のように裁判所がなければ提出にコストがかかるとか、そういった不便がなくなり、24時間、時間を気にせず申立てが可能となるので、このシステムの利用は大歓迎だというのが公式見解であった。
ただし、その後の昼食でワインを飲みながら話したところでは、やはり一定数の弁護士はこの種のe-filingシステムの利用が嫌で、抵抗しているという。

また裁判官の方も、もうみんな使ってますよというのが公式見解であったが、紙媒体に郷愁がある高年齢の人々はまだ存在しているし、そういう人たちはすべての提出書類をプリントアウトして、紙媒体資料をみて裁判をしているということである。これには書記官は協力しないので、自分でプリントアウトしなければならないという可哀想な状況だと説明を受けた。

あと、問題点はセキュリティで、今のところセキュリティ事故は起こっていないという。情報漏えいもシステムダウンも起こっておらず、うまく行っているという。
しかし、中央サーバーが仮にダウンするようなことがあれば、たちどころに全国の行政裁判所の業務が麻痺する脆弱性を抱えており、またウィルス感染の可能性も、きちんと防御していると言ってはいたが、きちんと防御しても防ぎきれないのがマルウェアではないかという疑問は禁じ得ない。
ただし、中央サーバーのセキュリティについては、現場の裁判所ではわからないことが多いと言っていた。

以上のように、フランスの行政裁判所におけるe-filingは極めて進んだシステムであり、みんなが使えば極めて便利な世界になると思われる。ただし、ID/PWに頼ったシステムとか、サーバーのセキュリティとか、あるいは各裁判官がダウンロードしたり紙にプリントアウトしたりしたデータが漏出する可能性とか、色々と危なそうなところも散見はされた。しかしこれらを厳重に締め付けると、逆に可用性が損なわれて利用が進まないというジレンマに陥るのだが、そこはフランスらしく、とりあえず緩めのシステムでやってみようということなのかもしれない。

参考サイト:Informations sur le télérecours

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