jugement:DHCが商標侵害、ドメイン名差止めで負けた事例
ドメイン名差止請求事件ということで見てみたが、興味深い裁判であった。
判決文中には、第一法規出版も登場する。
事案は、あの化粧品会社DHCが、台湾のバッテリーテスターメーカーDHCから商品を仕入れて販売している被告に対して、DHC-DSという表示を商標権侵害だから使うなといい、DHC-DSのドメイン名も抹消しろと求めたものである。
ちなみに被告のサイトは今もある。
化粧品のDHCだが、商標登録は手広くやっていて、DHC-DSの商標登録にバッテリーテスターも役務に加えていた。しかし、DHCの商標登録の役務に電気磁気測定器の製造販売を含めていたところ、その部分については被告の申立てに基づいて取消審判がされている。
また、被告と原告とは、まずDHC-Japanなどの表示をするなという原告の要求から交渉が重ねられ、原告においてDHC-DSの商標を取得した上で被告に使用させたり譲渡させるという内容の交渉がされていたところであった。
このような事実関係の下で、被告のDHC-DSの表示は原告の登録商標を侵害するとして差止等を求めたわけであるが、裁判所は以下のように判示した。
原告が,被告に対し,原告商標権に基づいて被告各標章の使用の差止めを求めるとともに,被告各標章を付した商品の廃棄等を求めることは,権利の濫用に当たり,許されないものといわざる を得ない。
不正競争防止法を根拠とする請求については、原告が大規模な宣伝をしていることは認められつつも、それは化粧品分野等に限られたものであり、バッテリーテスターについては参入しようとする形跡すらないし、ましてやクボタや第一法規等の会社がDHCをそれぞれの分野で商標登録して使っているなど、DHCといえば無条件で化粧品会社の原告を指すという認識が世間にあるとは言えない。従って類似性もない。
こうした判断を前提に、ドメイン名に関してもDHCとDHC-DSとは類似性があるとは言えないし、不正の利益を得ようとする意図も認めがたいとして請求棄却したのである。
もしこの事例がドメイン名紛争に持ち込まれていたらどうだったろうかと考えると、類似性の判断においてこの判決のような思考過程をたどっていたかどうかははなはだ疑問である。不正の利益については、業務の違いにより同一の判断に至った可能性はあるが、それてもパネリストによってはDHCの知名度へのフリーライドという認定に至った可能性もある。
まして、訴訟のような主張立証過程は予定されず、大体は一回の申立てと答弁書に基づいて判断することになるため、判決文で指摘されているような諸事実が提出される機会があったかどうかも疑問が残る。
そういうわけで、ドメイン名の紛争処理手続はあくまで明らかなサイバースクワッティングを切るにとどまるという建前だが、むしろ裁判よりも幅広くドメイン名侵害と認めてしまう可能性を示唆する事案ということになる。
それでもよいのだという考え方はもちろんあるのだが。
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