copyright:パロディなど二次的創作作品規制は創作活動萎縮を招く
下記記事によれば、「パロディーが規制されると多様な創作活動が萎縮するとの意見を踏まえ「2次創作文化への影響を十分配慮する」との考えで委員が一致した」とのことである。
国の文化審議会は11日、有識者による小委員会を開き、環太平洋連携協定(TPP)の発効に備えた著作権法改正の議論を始めた。この日の会合では、原作に似せたキャラクターを登場させるパロディー作品や、作品を掲載する同人誌を著作権侵害の摘発強化の対象にしない方針を決めた。パロディーが規制されると多様な創作活動が萎縮するとの意見を踏まえ「2次創作文化への影響を十分配慮する」との考えで委員が一致した。摘発強化に対しては、東京で開かれる日本最大の同人誌販売会「コミックマーケット」の主催団体やアニメファンらから懸念の声が出ていた。
非常にまともなご意見・ご認識ではないか。
パロディ Parodieとは、もじりとか風刺的改作などと訳される言葉で、フランス語にもあるが、原作品を風刺や茶化すことに使うわけであるから、当然原作品の本来の価値は変形され、それも高尚な形にではなく一般的にはより低俗な感じに歪められる。原作品の立場からすれば、バカにされたとか侮辱されたと感じる向きも当然出てくる。
しかしそれもこれも原作品に対する高い評価(単に有名だからというだけかもしれないが、大抵は印象的だからという評価)がベースとなっていることは言うまでもないし、原作品自体を攻撃したり貶めたりすることが目的ではない。
いずれにしても、日本法で考えると、著作権法を一応別としても、類似性や笑いを取るといったパロディの本質的な部分に加えて、商業的な利用もあり得るところなので、名誉棄損や不正競争行為と解されかねない。そもそも日本社会が風刺という文化に対して否定的なところがある上、身体的特徴を強調するといった表現形態はもうタブーと言ってもいい領域になっているので、パロディは極めてアブナイ領域であることは間違いない。
フランスの知的財産法には、パロディ目的での著作物利用が、例外として明文化されている。
フランス知的財産法典L122-5条
4° La parodie, le pastiche et la caricature, compte tenu des lois du genre
しかしこうした明文がおかれていても、その具体的な適用は微妙で、判例もある程度蓄積している。
そんなフランスの裁判例で認められた例が、Mr. Propre (Monsieur Propre)事件であり、画像検索してみると様々なパロディが出現している。→Paris, 9 septembre 1998
例えば、http://www.slate.fr/story/75744/affiches-comiques-rateesで紹介されているL'affiche M. Propreは、そんなパロディの連鎖の例だが、ブラックユーモアやドタバタ的ユーモアに用いられている様が理解できる。
日本では、本歌取りや狂歌といった表現の伝統があるにも関わらず、今なお、マッド・アマノ・パロディ事件の最高裁判決が判例として、パロディは一般的にダメという観念が強い。
この事件では、高裁において、
「本件モンタージユ写真作成の目的が本件写真を批判し世相を風刺することにあつたためその作成には本件写真の一部を引用することが必要であり、かつ、本件モンタージユ写真は、美術上の表現形式として今日社会的に受けいれられているフオト・モンタージユの技法に従つたものである、との事実」
が認定されているのだが、最高裁的には著作者人格権侵害や著作権侵害の例外とはならないとされてしまった。
しかしこの件も結局和解により解決されたのだが、より近年、「面白い恋人」事件が世間を賑わせ、和解により一定の利用が認められるに至ったことは、記憶にあたらしい。→白い恋人vs.面白い恋人が和解
これなどは、商業利用の中でのパロディであり、著作権的な考え方の中だけでは尽くせない問題であるが、いずれにしても和解により一定条件の下での利用が認められたという事実は大きい。
和解例の積み重ねによる法形成の一例と見ることもできるかもしれない。
ということで、日本でも徐々に、パロディに対する見方が変わり、許容される余地が認められる方向にあるとすれば、豊かな創作世界の法的基礎として望ましいし、上記記事における有識者の方々にも一定程度そうしたことに対する理解があることが感じられる。
しかし、それならむしろ、法的にもパロディが認められることを明文でも認め、その事例の集積により利害調整をより精密化していくべきではないのか。立法論としては、その方向が打ち出されることを期待したい。とはいえフェアユースと同様に困難かもしれないが。
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