lawyer:アディーレの有利誤認表示と契約取消権
アディーレ法律事務所の件が、国民生活センターのウェブサイトで周知されている。
一部引用すると以下の様な事実経過だ。
弊所は、債務整理に係る事務を一般消費者に提供するに当たり、弊所のホームページなどにおいて、2014年11月4日に返金保証キャンペーンを実施することとし、「キャンペーン期間中(11/4~11/30)」に「債務整理でご依頼をされた方で、ご契約から90日以内に契約の解除をご希望された場合、着手金をすべて返金いたします」と表示したほか、同期間中に債務整理を依頼され、「借金を完済した方は過払い金返還の着手金が無料」、「現在返済中の方は、相談前の過払い金診断が無料」と表示しました。このキャンペーン期間経過後も、弊所は、約1ヵ月ごとの期間で返金保証キャンペーンを実施し、弊所ホームページにおいて、たとえば、「継続決定!2015 4/1→2015 4/30」、「今だけの期間限定で「返金保証キャンペーン」を実施いたします!」と記載するなど、当該期間内において債務整理を依頼した場合に限り、着手金の全額返金などを行う旨の表示をしておりましたが、当該期間の終了後には、再び約1ヵ月の期間ごとに同じキャンペーンを実施しておりました。その結果として、平成26年11月4日から平成27年8月31日までの期間において、返金保証キャンペーンを実施したことになり、この表示は、弊所の役務の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であり、景品表示法に違反するものでした。
要するに、期間限定サービスをうたって広告して客を集めておきながら、実はその期間に関わらずに同じサービスが提供されたというわけである。
いつも閉店セール、あるいは開店特別サービスと銘打って営業している他の事業者に、警告の事例となることだろう。
その結果どうなったか。
アディーレの上記返金保証サービスは、期間限定ではなくずっと行うこととするようだ。
さらに、その上、期間中に返金保証サービスがあると思って契約した人たちには、その保証期間に関わらず、契約解除に応じるということにしたわけである。
これは要するに、不実告知を理由とする取消権を承認するということに等しい。
該当する景表法の条文は以下のとおり。
第四条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
問題は2つある。直接にアディーレのケースに関係するわけではないが、まずは、この条文に取消権がついていないことだ。
消費者契約法には、以下の様な条文で取消権が認められているのだが、景表法にはない。
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
規定の体裁が違うのでわかりにくいが、消費者契約法の法は「勧誘をするに際し」という一文があり、広告にとどまる場合は対象外になっていることである。
この点は、不特定多数人への広告だけをみて契約するネット時代に適合しないということで、ずっと前から改正の必要があると言われ、解釈論でも不特定多数人への広告が勧誘にあたる場合があり得ると主張されてきたところである。
しかしなお、不実告知で釣って客を集めることをダメとは考えない悪質な事業者が、この「勧誘」要件の改正に反対していて、立法に結びつかない。
この点ではアディーレの対応は潔いと評価できる。
第二点、この景表法上の不実告知は同法10条で、適格消費者団体による差止請求権の対象になっている。
また将来的には、下記の文献にもあるような集団的消費者被害回復の対象として、特定適格消費者団体が活用できる規定となるかもしれない。
ところが、今回のような法律事務所の営業が対象だと、(特定)適格消費者団体の主要メンバーが弁護士であるため、同業者の利益・不利益につながるとして、利益相反になるという判断がありうる。
この問題は、現在なお検討中の特定適格消費者団体の監督指針ガイドライン案にある以下の様な記述からうかがわれる。
規則第8条第1号ヘに規定する「その他の業務の公正な実施の確保に関する措置」とは、例えば、特定適格消費者団体の役員、職員又は専門員が、事業の内容や市場の地域性等を勘案して被害回復裁判手続の相手方である事業者と実質的に競合関係にあると認められる事業を現在又は 過去2年の間に営み、又はこれに従事したことがある場合
ということは、仮に法律事務所が今回のような消費者問題を引き起こしたとしても、差止請求や被害回復請求は出来ないということになりかねない。あるいは弁護士さんの関与なしに行うか、地域的に競合するかどうかを慎重に見極めたうえで判断するか、その場合でもアディーレのように全国に広がる法律事務所の場合はどうするのかなど、難問である。
今回の問題が一つのきっかけになって、より良い方向へと向かうことを望むばかりだ。
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