copyright:著作権保護対象でない絵の所有者に無断で複製を公開しても不法行為にはならない
商慣習か、慣習法かと、大学一年の時に習うテーマであり、その時習ったタームが出てくるので興味深い。
事実上の商慣習に違反しただけでは不法行為法上違法とはいえないことは明らかであるから,ここで問題とされるべきは,少なくとも,それ自体で法規範足り得る商慣習法である必要があるが,商慣習法が存在すると認められるためには,事実上の商慣習が存在し,それが法的確信でよって支持されていることが認められなければならない。
慣習は、それが法的確信を伴って初めて法源としての慣習法と認められるということである。
そこで具体的に著作権の対象でない写真や絵画でも、それを有償で許諾を得て使うということが行われているかというと、確かに行われていると判決が認定している。
判決で挙げられた例は、原告許諾による「錦絵幕末明治の歴史」の他、文化庁、国公立博物館、資料館等、国立国会図書館(ただし無償)、写真エージェント等であり、以下のようにまとめられている。
これら事実によれば,著作権の存否とは関係なく,著作物の無体物の面の利用については,その所有者から許諾を得ることが必要であったり,対価の支払を必要としたりすることが一般的になっており,そのような慣習が存在するように見受けられるところである。
これらの評価としては、まず原告に許諾を得る理由はハッキリ言って原告がうるさいから、提訴までするから、その面倒を避けるためという場合が多いようだし、博物館等の場合は所有物の貸出しや利用範囲のしてい権限といった面からも説明がつくので、著作権の対象でない情報の利用に有償で許諾を得るという商慣習すら存在しているとは言えないとしている。
そして、商慣習(法)と法との関係で以下のように判示しているところも興味深い。
そもそも原告が商慣習又は商慣習法で保護されると主張する利益は,著作権法の保護しようとしている利益と全く一致しているものであるところ,著作権法は,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を与え,その権利の保護を図り,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,その発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その権利の範囲,限界を明確にしているところであるから,著作権法が保護しようとしているのと同じ利益であり,しかも著作権法が明確に保護範囲外としている利益を保護しようとする慣習は,著作権制度の趣旨,目的に明らかに反するものであって,それが存在するとしても,そこから進んで,これを法規範として是認し難いものである。
つまり、原告が主張する慣習が守ろうとする利益は著作権法の保護しようとする利益と共通するものであるから、法が定めた独占的権利とその外側の自由利用の保障の区別と異なる線で独占的権利の存在を主張することは許されず、そのような結果をもたらす慣習は、仮にあったとしても法規範足り得ないというわけだ。
もっと簡単にまとめてしまえば、実定法と異なる慣習は法規範足り得ないということになる。
ところで民法92条には、「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う」との規定があり、任意法規と異なる慣習が法源足りうるではないかという疑問が大学一年生的には出てきそうだ。
しかし、この規定は少なくとも文言上は当事者の意思解釈の問題であり、従って契約当事者間の問題には適用できても、契約関係のない者の間の慣習(法)の意義には関係しない。
かくして、パブリックドメインに属する情報は、それが許諾や許諾料を必要とすると表示していたとしても、公開されているところから無断で複製しても不法行為にはならないとの結論である。
情報としてはパブリックドメインに属するが、有体物としては所有権の対象となっている物、古い絵画などはすべてそうだが、そういう場合の考え方をきちんと示した良い判決だと評価できる。
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