colloque:スペインとフランスの財産法改正比較研究
ポワチエ大学の私法学研究チームとスペインの複数の大学の教授が共同研究を行った成果のシンポジウムが、ポワチエ大学法学部で行われた。
フランスの債務法改正の動きは、ずいぶん前のカタラ草案の辺りからもう紹介もされ、日本でもずいぶん知られている。
結局フランス議会は行政府にオルドナンスで立法するよう授権する法律を通したので、現在はオルドナンスの案が出されているところである。
以下のリンクは、司法省サイトにあるオルドナンスの現在の案である。
これに対してスペイン民法の改正は、スペイン法自体の研究者の数も少ないので、おそらく日本ではあまり知られていないと思われる。
例えば日本法務省の民法(債権関係)の改正に関する論点の検討(21)pdfでは、フランス民法について改正草案が各種検討されているのに対してスペイン民法の改正は検討対象とされてない模様である。
なお、スペイン民法自体の邦訳は、神奈川県司法書士会の古閑次郎司法書士のサイトに掲載されており、2014年までの改正が織り込まれているとのことで、大いに参考になるところだ。
さて、ポワチエ大学のシンポジウムだが、フランスでのこの種のシンポジウムでは珍しくハンドアウトはあり、またパワーポイントによるプレゼン提示もあったのだが、それらを利用していたのはほとんどがスペイン人であって、フランス人でハンドアウトを配っていたのは二人、プレゼン提示は誰も使っていなかった。
それはともかく、スペイン民法は一応国家法があるものの、自治州というのか、地方法が優先適用されることが憲法で決まっており、この立法管轄上国家法だけ見ていてはわからないということである。
さらに、もっと複雑になるのが、商法については国家法が全面的に立法管轄を握り、地方法はない。しかも商法の適用範囲はB2BのみならずB2Cにも及び、つまり消費者法に属する契約も商法の規律範囲なのだそうである。当然電子商取引も商法の適用範囲である。そして民法については補充的な立法管轄を持たない国家は商法で契約法を実質的に規定できるので、商法改正も同時に進めているという。
疑問なのは、民法地方法と商法国家法との觝触があったらどうなるのかということだが、議論の対象になっているようであり、一応は民法に対する商法の優越が認められているようだが、スペイン人の間でもその点は議論があるようで、詳しいところはよくわからない部分が残っていた。
商法の規定はともかくとして、国家法としての民法も改正が進められているということである。
改正草案について英語かフランス語での資料は現在は公表されていないが、このシンポジウムの成果が書籍として刊行されると、そこには掲載される予定だという。
二日間にわたって行われたシンポジウム、全部は出られなかったが、それぞれ昼食は学内のホールでワイン付きで摂り、そこでも参加者同士の尽きない議論が続けられている。
特にフランス人にとっては中央集権が当たり前であるので、スペインの地方法の存在は興味深いようである。ただしフランスにもアルザス・ロレーヌの例外やその他の海外領土の例外はあるのだが。
日本についても質問され、一応、封建時代の藩の法を除けば、7世紀くらいに統一されてからずっと、いわゆる地方法というものは持たないまま全国統一の法制度の元にあるという話をした。封建法をどれほど大きく位置付けるかは定見のないところではあるが。
シンポジウムが行われた夜は、乳がん対策のシンボルカラーとして、市役所がピンク色に染められていた。
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