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2015/09/07

月曜一限はDroit Civil

ポワチエ大学の法学・社会科学部一年生(Licence1)の授業も、今週から本格的に始まった。
ポワチエ大学では、一般市民に無料で講義の一部を開放しており、登録も可能であるため、chercheur invitéと名乗れば聴講は可能だが、一般市民としての登録をした上で出席してみた。

月曜日の一限、朝8時から10時までという結構辛い時間帯に、ちょっと前まで高校生だった子供たちへ「民法」と題して、どのような授業をするのかと興味津々であった。
22年前の留学の記憶では、日本でいう学部生レベルでは、先生の言うことを一字一句書き取るディクテ方式が主流であったし、学部四年からの大学院修士レベルでは一方的にしゃべる授業でたまにレジュメを配る先生がいるという印象であったが。
Droitcivil


教室は、法学部棟のおそらく一番大きい階段教室で、先生は定刻2分過ぎくらいにノートとLexis Nexisの民法典をもってふらりと現れ、やおら喋り出した。

「まず、この授業は諸君が大学に入って最初の授業であるし、このセメスターの最初であるので、授業の受け方についても同僚のために一言注意したい。」
そのように言って、まずディクテはしないと述べた。大学では、先生の話を的確にノートを録ることも訓練の一つであり、そのため、ディクテ方式はしないという。当然ながらレジュメやノート配布もない。何をノートにとればよいかというと、それは要点だ。どこが要点かは、だいたいにおいて繰り返し述べるとこが要点だ、とそういう説明である。
第二に、私語はしないこと。第3に遅刻はしないこと。
そのように言っている間にも、次々学生が入ってきて、ちょっと間が悪かったが。

その上でさて民法だが、と本題に入った。

そもそも民法Droit Civilというタイトルの授業なので、何をどこまでやるのかがよく分からない。
時間は33時間ということなので、常識的には民法入門という位置付けの授業なのであろう。

という予想を立てていたが、実際にも民法概論入門編という感じであった。

最初に民法とは何かを、その法体系の中での位置付け、法源、すなわち何から民法は得られるのか、そして民法は何に適用されるのかという適用領域という三つを説明するといって、その第一に法体系の中での位置付けと法源の途中までを二時間で一気にしゃべった。

法体系の中の位置付けという話は、要するに私法の一般法であるということなのだが、何しろ相手は一年生である。法 Droit とは何か、道徳とはどう違うのか、をちょっとだけ、法とは一般性・抽象性・強制性のある規範だということを少しだけ述べて、また Droit には二つの意義があって、一つは Droit objectif であり、もう一つは Droit subjectifで、両者は補完的だという話をした。その上で、その法は大きく公法と私法とに分かれ、そのうち私法の最も重要なのが民法だと、なぜ重要かというと民法は私法の全領域に適用のある一般法で自律的だからだと、そういうお話である。
一般法であるということは、商法を引き合いに出し、商法は例えば商人間の契約でも商法の規定では完結しておらず、例えば不履行の際の損害賠償のルールなどは民法に戻るのであるから、商法には自律的完結性がない、そのような場合に常に民法が出てくるという意味で一般法であり、したがって私法の中で最重要なのが民法である、ということであった。

次いで法源としては、意味論的なsourceの解説を少ししたのち、形式的な意味での法源を三つ挙げた。一つは法律 Loi であり、これは国により成文で定められたものと定義される。二つ目は慣習、これは人々の感情により自律的に生成されたものと定義され、そして第三に私法の一般原則principes généraux de droit privé が挙げられた。

第一の法律とは、広義の意味では国家が成文で定めたもので、狭義の意味では国会と大統領が定めたもの、すなわち法律を意味するとし、民法は民法典がその厳密な意味での法源としての法律だという。
そして、民法典について、その発展を五つの時代に分けて説明する。
 すなわちアンシャンレジウムは、成文法地域と慣習法地域の存在、カノン法の存在、パルルマンの判例法の存在があり、要するに diversité の時代であった。
 次いで革命期の中間法の時代は、革命思想、すなわち啓蒙思想に法を合わせることを目的とし、自由主義・平等主義・非宗教主義 laïcité を民法領域に適用した時代であった。
 その後、法典編纂の時代は、四人の起草委員が成文法地域と慣習法地域のそれぞれから二人づつ選ばれた弁護士であることを指摘して、民法典の編纂に四つの特徴があったと説明する。それは統一性、実務家による仕事であること、妥協・融合、そしてイデオギーであるという。
 その後の発展の時代は、個別分野ごとの改正が重ねられた一方で、特別法や特別法典が作られていった。
 将来展望は、てっきり民法典改正の話になるかと思ったが、そうではなくてEU法やヨーロッパ私法の影響による変容が挙げられていた。

法源の第二は慣習法 Coûtume だが慣習法の意味、意義とその機能との二つに分けて説明する。
慣習法と単なる習慣usageとどう違うのかということだが、慣習法には反復性、継続性、一般的な適用、一般的な確信に根ざしていること、そして行動に基づいていることという特徴があり、例えば限られた範囲における反復された実務は一般性を持たないがゆえに慣習法ではないという。

そして法律との関係で慣習法がいかなる機能を持つかということで、三つの用語を挙げた。
auxiliaire
subsidiaire
supplémentaire
それぞれ、補佐的、補充的、補足的と訳を充てることはできるが、ちょっと言葉の上からだけでは分かり難い。

ということで、二時間の授業が終了。


学生の大半はこの授業に付いていっていたようだが、私の直前の席に座っていた女の子二人は、カノン法のあたりで燃料切れとなったらしく、ノートを取るのはすっかり放棄し、机に突っ伏したりスマホを見たりしていた。
後ろの席に座っていた学生たちは、パソコンでノートを取っていたが、まあ大体最後までキーの音がしていた。
先生は、ところどころで学生に、これはなんていう?などと問い掛けて一言二言答えさせつつ授業を進めていって、学生たちも高校までの教育成果で大教室でも臆せず答えていたし、私語もまあ気になるほどはなかった。
しかし、法律を初めて習う二十歳前の子供たちに、この授業の内容は難しいだろうなと思う。30年以上、法律を勉強してきた私にとっては、それこそ成文法地域と慣習法地域とか、法の概念とか一般法・特別法とか、言葉さえ聞き取れれば何言っているかはわかるレベルだが、初めて耳にする言葉でその意味を二時間の説明でわかる筈はないのである。何を言っているか、言葉は聞き取れても内容は分からないだろうし、分からないことも分からないのではないか。

日本でもフランスでも、とかく概論的な授業に特有の難しさがあるが、それが如実に現れる授業だった。

ということで、ともかく20年ぶりのフランスの法学授業は、ディクテ方式こそなかったものの、まああまり大きくは変わっていないようであった。

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