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2015/07/06

フランスのDV対策2014-1016

フランスは女性の権利の尊重という面で先進的だと、日本からは見えるのだが、当のフランス人たちは必ずしもそうは思っておらず、フランスはマッチョな男性中心主義が残っていると嘆く声も聞かれる。
あんなにパリテが導入され閣僚の半分が女性であり、地方議会選挙では男女ペアの名簿登載というところまで行っているし、女性が働きながら子育てもしやすい環境を整えたこともあって出生率がドイツや日本に比べて劇的に改善しているのに、である。

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DV問題についても、日本から見ればフランスはずいぶん進んでいるように見えたが、フランス人たちは決して満足しておらず、むしろスペインのほうが先進的で学ぶところが多いという。

なお、いつものことだがフランスを含むDV比較法調査は、法はDV被害者を救えるか ―法分野協働と国際比較 (JLF叢書 Vol.21)で行ったことがあるので参照されたい。

DVの被害が今なお多いことを象徴的に示す数字として、夫婦間の殺人件数が挙げられる。

2012年の統計だが、夫婦間殺人数は174人の犠牲者を出しており、そのうち148人は殺されたのが妻だ。
日本の統計は一番新しい2013年だが、155件の殺人事件が夫婦間であり、そのうち妻が殺されたのは106件である。
この日本の統計には、配偶者暴力事件だけでなく、保険金殺人や嘱託殺人など多様なものが含まれているということだが、フランスの統計もその点は必ずしも明らかではない。いずれも法律婚とは限らず、日本の場合は内縁も含むとある。

両方不明な部分が紛れている数字ではあるが、無理やり比較すれば、フランスでは2.5日に一人の妻が夫により殺され、日本では3.5日に一人の妻が夫により殺されている。
人口はフランスが日本の約半分であるから、これを補正すれば、フランスで一年間に夫により殺される妻の数は日本の三倍近くに上るという計算になる。
これは、あくまで正確な比較ができるかどうかわからない統計数字を元に無理やり比較した結果だが、日本よりDV被害を受けている女性が多そうだということは分かる。

フランスの女性は殴られて黙っているような大人しい存在ではない、という感じもしていたのだが、先日検察官に伺ったところでは、やはりフランスでも妻は夫を警察に突き出して告訴するということをためらう傾向にあるという。それは子どもの父親ということもあるし、経済的に夫の収入に依存しているということもあり、身内が警察に捕まれば世間体が悪いということも現にあるという。
2010年及び2011年のINSEE統計によれば、DV被害者のうち16%しか告訴はしていないという。

もっともこの16%という数字は、日本からすれば大きいというべきかもしれない。というのも日本では、2013年に警察が認知した配偶者暴力事案(相談も含む)が49,533件に上るのに、検挙件数は4,444件しかない。婦人相談所の一時保護件数も同じレベルの数字であり、相談も含む事案で検挙は10%未満である。

日本との比較はともかくとして、被害者のうち16%しか告訴しないという現状を何とかしなければならないというのが2014-2016年の関係閣僚第四次計画の柱であり、原則として、DV被害者が警察に来たら、単なる被害届にとどまらず告訴して刑事聴取をうけることができるようにしなければならないという方針を立てている。
そのためには、被害者が告訴を明示的に拒絶して被害届や調書作成にとどめた場合、常に、その拒絶により生じる帰結、その権利と権利を主張すべき手続、そして法律扶助についての情報を提供しなければならない。そして福祉部局や心理療法士、非営利社団の受付窓口などの支援組織に行くことを常に勧めるものとされている。

以上の他、2014-2016年の計画では、直通のDV被害相談電話3919の運用開始、ソーシャルワーカーの警察署等への配置の倍増、2017年までに1650箇所のシェルターをオープンさせること、被害者に教示する内容の発展、保護命令の強化と緊急通報要携帯端末の一般化などが盛り込まれている。

こうしたフランスの継続的な努力に、日本も学ぶべき所は多い。

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