consumer:消費者裁判手続特例法の最高裁規則について
6月29日付けで官報に、消費者裁判手続特例法の規則が公布されている。
https://kanpou.npb.go.jp/20150629/20150629g00145/20150629g001450001f.html
いずれは、最高裁規則集にも載ることであろう、と思ったら、既に未施行印付きで掲載されていた。→PDF全文
全部で43か条と、それ程大部でもないが、新しい手続である簡易確定手続については6条から35条まで、全体の約4分の3を占めて、詳細な規定がおかれている。
本体の法律については、ホクネット監修の『消費者のための集団裁判~消費者裁判手続特例法の使い方』を参照していただきたいが、規則について注目点をいくつか見ていこう。
まず、全体については、円滑迅速進行義務と信義則が確認されているほか、実質的に同一の共通義務確認訴訟が二つ以上の団体で提起されている場合の、相互の連携協力義務が、当事者の責務とされている(第1条)。
相互の連携協力義務として、どこまでの具体的な行為をしなければならないかは、今後の実務の進展に待たなければならないが、そもそも二つ以上の団体が実質的に同一の共通義務確認訴訟を提起することがどれほどあるか、それをどれほど想定しての規則化なのかという点には興味がある。
特定適格消費者団体がとれほど認定されるかということにも拠るが、地域的に広範囲に及び、また消費者の数が多くなれば、一つの団体だけで処理するのは困難となる。しかしその一方で、複数の団体が密接に協力しあうこともまた、地理的に離れている中では、しばしば困難が伴うのである。
例えば全国レベルの弁護団で一つの集団訴訟を遂行することは、現に行われているではないかと思われるかもしれないし、その実務は大いに参考になると思うが、団体それぞれが独立して責任をもって裁判手続を遂行せよという建前の法律であるから、集団訴訟の場合とは異なる場合が出てくるのではないかという懸念はある。
次に、共通義務確認の訴えについては、二条から五条までが当てられている。基本は民事訴訟なのであるから、数が少ないのも当然だが、訴状の記載事項についての詳細を記した2条が特に目を引く。
第二条 法第五条の規定による対象債権及び対象消費者の範囲の記載については、消費者契約の年月日、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの内容、その対価その他の取引条件、勧誘の方法その他の消費者契約に係る客観的な事実関係をもってしなければならない。2 共通義務確認の訴えの訴状には、民事訴訟規則(平成八年最高裁判所規則第五号)第五十三条第一項及び第四項に規定する事項のほか、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 対象消費者の数の見込み
二 請求の内容及び相手方が同一である共通義務確認訴訟又は事実上及び法律上同種の原因に基づく請求を目的とする共通義務確認訴訟が既に係属しているときは、当該共通義務確認訴訟が係属している裁判所及び当該共通義務確認訴訟に係る事件の表示
3 共通義務確認の訴えの訴状には、前項第一号に掲げる事項の根拠となる資料を添付しなければならない。
上記のホクネット監修本では、前半に具体的事件をシミュレートする物語を記し、その中で訴状のモデルについても提示している。
実際のところ、「対象債権及び対象消費者の範囲の記載」に関して、「消費者契約の年月日、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの内容、その対価その他の取引条件、勧誘の方法その他の消費者契約に係る客観的な事実関係」を記載するというのも、限界はある。
まず消費者契約の年月日とあるが、具体的な対象消費者を特定することなく訴えを提起するのであるから、具体的な消費者契約の一つ一つを年月日をもって特定することはできない。これはそもそも原理的にできないはずなので、その前提で解釈をするなら、年月日を記載することは通常有り得ず、一定範囲で記載することも許されるはずである。特定できる場合は特定するという趣旨だとしても、特定しすぎてしまう弊害もまた考慮すべきで、例えば「2015年7月に締結された」と特定してしまうと、8月1日に締結した消費者は当然に判決の効力を受けず、第二段階にも参加できなくなってしまうのである。
他の項目についても同様で、共通性を基礎づける限度では特定しなければならないが、一定範囲の共通性を基礎付けることを越えて、認識できている個別被害ケースに特有な客観的事実をそこに書いてしまえば、本来対象となるべき消費者を排除してしまうので、注意する必要がある。
また、対象消費者の数の見込みを書けということが記載されており、これには二条三項が根拠となる資料も出せと書いてある。さて、パイオネットの相談記録から、20万人の相談があるとして訴えを提起した場合に、パイオネットの情報照会に対する国民生活センターからの回答で十分な資料と認めてもらえるだろうか?
パイオネットは単に相談があったということで、対象消費者の数の見込みには直結しないでしょうと突っ込んでくる裁判官・書記官はいないだろうか?
あと、和解に関しては、いわゆる請求認諾的和解しか認めないという立法者の立場を前提に規則が作られているようである。
第五条 当事者は、法第二条第四号に規定する義務が存することを認める旨の和解をする場合においては、当該義務に係る次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
一 対象債権及び対象消費者の範囲
二 事実上及び法律上の原因
もちろんそれ以外の内容の和解も排除されているわけではない。この点は、『消費者のための集団裁判~消費者裁判手続特例法の使い方』の中でも、93頁あたりに論じておいたが、第二段階の開始を前提としない和解についてもあり得ないわけではない。
対象債権確定手続に関する規則の検討はまた後日。→その2
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