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2015/05/28

IAPL2015イスタンブール三日目午前〜脆弱性を持つ人々の司法的保護

matimulog 6666本目のエントリ

Mekki_2
第三セッションはCivil constraints on personal mobilityと題している。個人の移動に対する民事的強制という、直訳するとわかったようなわからないような題になる。
報告者は二人の予定だったが、一人がドタキャンしたらしく、後で聞いたら昨日の最後にカディエ先生がそのように言っていたという人がいたが、ともかく9時開始の予定に間に合うように会場に来てみたら誰もおらず、何人かが待っているとスケジュールが変更されたと係の人が伝えに来た。
ということで、報告者はパリ第10大学のSoraya Amrani Mekki先生一人。

Mekki先生の報告も、タイトルの意味論から始まった。民事とは、移動とは、強制措置とはと。実はフランス語タイトルにはCivilという文字はなく、Mesures de contraintes affectant la mobilité des personnesとある。ドイツ語も同じだ。必ずしもCivilにはこだわらず、また司法裁判所と行政裁判所にも越境して問題を捉えるということである。

実際に取り上げられたのは、脆弱性を持つ人々の司法的な保護であり、その反面として脆弱性に対する攻撃者に対する司法的な拘束であったり、あるいは保護のための拘束である。具体的な問題として取り上げられたのは、対女性あるいは家庭内での暴力事案、外国人、精神障害や知的障害のある人々などについての司法的保護である。


この問題に関して、司法としては何を考えなければならないかというと、一つは管轄の問題であり、これには刑事か民事か、行政機関か裁判所かといった権限管轄の問題と、裁判所の専門性の問題が含まれる。
 比較法が困難なのは、特に行政に対する裁判所の立ち位置が異なるということであり、例えばMekki先生が紹介する国別レポートによれば、中国では行政庁の決定に対して裁判所が介入することは考えられないのに対して、フランスでも別の意味で行政庁の決定に司法裁判所が介入することはできず、行政裁判所の管轄となる。それが可能なのは、アメリカ合衆国などとなる。
 また、民事裁判所がDV保護命令を発し、これに対する違反に刑事罰を用意している国々も多く見られるが、特殊な人権擁護機関としての裁判所がスペイン・ブラジルにはあるという。
 そして保護命令は、その対象たる加害者の人権を侵害する可能性を秘めている。Mekki先生によると、イタリアでは保護命令が身体的、性的暴力のみならず経済的暴力も対象とし、しかもそれらの恐れがあるときも含まれるように拡大した結果、自由に対する抑制が強すぎるようになったとの評価もある。

 裁判所の専門性という意味での管轄についても、女性の保護の必要性、暴力に直接又は間接にさらされる子どもの保護、そして面会交流における暴力配偶者の取扱などについて判断するには専門性が必要であり、裁判官自身が専門性を身につける場合と、第三者的専門機関と裁判所とが協働する体制を作る場合とが立法例として見られるという。さらには脱裁判化、すなわち調停に委ねるという可能性も指摘されている。

 いずれにせよ、脆弱な人々に対する法的保護を、被害予防的な措置によらないで実施すれば極めて高いコストがかかるのに対して、裁判所が被害を抑止するならば、そのコスト抑制につながる。こうしたことから、裁判官は、紛争の中立的かつ消極的な仲裁者にとどまるのではなく、事実の究明にも積極的な職権行使を行い、専門家との協働体制を主導して、社会的エンジニアの役割を果たす必要があるとされている。
 
後半は、保護措置や強制措置を裁判所が取る場合の手続的正統性の問題で、時間や形式面で、既存の観念と保護を目的とする場合の調整が語られた。
 例えば、女性に対する暴力が行われている時に、保護命令の審理に両当事者の言い分を聞いていれば間に合わないので、まず保護命令を出し、当事者の言い分を聞く手続は後回し、いわば抗告審でやれば良いとの制度が紹介された。
 また両当事者の立合いの場を確保することも、ビデオコンフェランスの利用が考えられる。
 不服申立てよりも執行を先に行ってしまう可能性も認められる。
 形式面では、公開性の制限と、両当事者の立合いの制限とが問題となり、いずれも必要性とその弊害との考量の上で制度設計をすべきだという。立合いの問題は、オンライン技術の利用のほか、病院で法廷を開くという出張尋問に似たアイディアも紹介されていた。

感想
脆弱性を持つ人々の保護の必要性は、単に小手先のバリアフリーで事足りるわけではなく、裁判官の能力や役割そのものを拡大していく必要があり、これまた一つの司法機能の拡大ということなのであろう。

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