IAPL2015イスタンブール二日目
仮処分を広い意味で用いるというのは、本案の終局的確定的裁判に対して、事前の、仮の処分を行う裁判一般を指し、我が国でいえば民事保全のみならず証拠保全も含まれる。
関心は国により異なる。
例えば英米法諸国において最も注目点だとされているのは、アントンピラー・オーダーやマレーバ・インジャンクションの問題であり、日本法的には異なる性質のものであるはずの証拠保全が需要な問題となる。この点はフランス法も同様で、証拠保全は仮処分に相当するレフェレで行われる。
また、インジャンクションという問題の切り口で行くなら、差止め一般の問題と関係させつつ、裁判所の裁量による救済という特徴に行き着く。
ちなみに、DV保護命令もこの文脈で論じられているし、その他の家族法上の保全処分、子の引渡しに関する裁判所命令なども視野に入ってくる。
質疑を通じて全体として浮かび上がっていた問題関心は、広義の仮処分が迅速性と簡略性を備えつつ、本案化現象、すなわち本案訴訟をまたずに紛争解決につながり得るということから、一方では当事者の手続保障が省略されて良いのか、また証拠を制限して疎明で足りるとして裁判の質を落として良いのか、他方では簡略化された訴訟(典型的には少額裁判だが、それ以外も)との関係はどう理解されるのか、といった体系的理解にも向かっていた。
カディエ先生は、次のようにまとめていた。
効率性のプレッシャーと防御権保障のプレッシャーとの挟み撃ちにあう仮の措置。他方、仮の措置の拡大に限界はあるのかという問題。効率性と公正との均衡の問題。
仮の措置と通常訴訟との関係、特に通常訴訟の簡略化との関係については、様々な法の領域ごとに様々な手続的な応答可能性があり、仮の措置はその一つの形態に位置づけられる。
続いて第二セッションでは、東京大学の垣内先生が、簡略訴訟の概念について、経済的利益が低いことと法的な重要性が大きくないことの2つのメルクマールを軸に、概念整理を行い、ついでロッテルダムのXandra Kramer教授が、世界的な経済危機が民事司法に与える影響として簡略化訴訟を取り上げていた。
経済危機が緊縮財政を余儀なくし、その結果民事裁判にどのようなしわ寄せが来るのかという観点から見ると、手続のデジタル化やADRの拡大もその影響に数えられるし、簡略化訴訟もその一つの手段となるというわけである。興味深い観点だ。
日本法も、バブル崩壊が民事司法に大きな影響を与えた。典型的には、債権回収手段の強化充実と、倒産処理法の効率化・多様化、あるいは民営化というか倒産ADRの導入という形に現れた。弁護士を司法機関の一つと位置づけるならば、サービサーも債権回収手続の民営化みたいなものである。
日本の場合は、裁判所に税金を投入できないという事情からの裁判の簡略化や効率化という結果になったわけではないが、そういう誘因がないためデジタル化が進まないのかと思うと、残念なような、良かったような、微妙である。
妙に時間厳守なコーディネートのお陰で、予定時間を40分も残して終了。
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