Book:判決はCMのあとで
今年読んだ22冊目。
青柳碧人さんの判決はCMのあとで ストロベリー・マーキュリー殺人事件 (角川文庫)は、いわゆる法クラ妄想に満ちたパロディの形をとった、しかし真面目な裁判員制度批判の本である。
以下、話の筋はバラさないが法律小ネタやパロディについて注目して行こう。
解説の東川篤哉が書いているように、本書は「パラレルワールドの日本を舞台にした架空法廷コメディミステリ」であり、裁判員裁判を極端なまでに商業主義に毒され、エンターテイメント化された法廷として描いている。
その中で裁判員の一人を語り手として、最初は恋人の法学部学生に現実の裁判員制度とその行き詰まり状況を語らせ、その打開策としてテレビショウにしてしまったという架空の歴史が語られる。
その結果は、裁判官の一人が毒づく、「この国の司法はぶっ壊れちまったんだよ」というセリフに集約される。しかし、このセリフは、そのまま司法制度改革に対する反対の立場の法曹が、しばしば現実にも吐き捨てるセリフでもある。
裁判員というのは、法律の素人が裁判をするわけで、その際に求められるのが「市民感覚」。本書では市民感覚とは何かを、裁判員のそれぞれの立場からの意見に体現させている。例えば指物師の職人的感覚では、事件の真相がぴったり収まらないと結論を出せないといって、被告人が有罪かどうかではなく、真実がどうだったかを見つけた上で自信を持って判断したいという。
そうそう、パロディやダジャレに満ちているのも、法クラの皆さんには嬉しいニヤリをもたらしてくれる。
CSB法廷8というアイドルグループが出てきて、これが裁判員経験者でスカウトされた「裁ドル」という存在なのだそうだ。
その中のセンターをとるまほっちは、何のとりえもない独身男性に何故か好意を寄せてきてと、この辺も二次元フェチ的な要素を多分に含む法律オタクの妄想力を刺激する。
未必の恋というのが、彼女たち裁ドルのヒット曲なのも面白い。
それと、大津事件が二度ほど出てくるのだが、これはやはり背景に裁判の独立がテーマですよということを言いたいがために、伏線として出しているのだろう。しかし法律家でない読者には、もう少し情報がほしいところではなかろうか。
その他、被害者参加制度とか、伝聞法則とか自白法則とか、筋立てには事欠かないのが刑事裁判だ。
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