arret:弁護士会照会に報告を拒絶したことが違法として損害賠償が認められた事例
行方不明になった民事訴訟の被告の転居先を調べるため,弁護士法に基づき郵便局に転居先照会をしたのに拒否されたのは違法だとして,控訴人弁護士会らが被控訴人に損害賠償を求めた訴訟につき,被控訴人が照会事項の全部について報告を拒絶したことは正当な理由を欠くものであり,被控訴人に過失があったものとして控訴人弁護士会の請求を一部認容した事案。
弁護士会照会に報告を拒絶したことが違法であるとして損害賠償を請求する場合、当事者本人、照会を求めた弁護士、そして照会した弁護士会の三者が債権者となりうるが、本件は当事者本人と弁護士会が原告として損害賠償を請求し、控訴審で弁護士会の請求のみが認められた事例である。
報告義務違反については、郵便法上の守秘義務と公法上の義務たる報告義務とのそれぞれの要素を比較衡量した上で、義務違反の存在を認めた。
また過失については、極めて興味深い判断が下されている。
東京高裁の平成22年9月29日判決は、強制執行に際して転居先情報についての弁護士会照会を求めたが拒絶されたことについて、当事者本人が損害賠償を求めて棄却されたものだが、以下のような補論が付けられていた。
被控訴人に対し,照会事項aないしcについて改めて報告することを要請したい。さらに,新住居所という転居届に記載された情報に関しては,23条照会に応ずる態勢を組むことを切に要請したい。
これを受けた被控訴人(要するに郵便事業会社で本件と同じ)が、23条照会には一律に報告しないとの方針を決定した。
そこで、本件の報告拒絶も、「23条照会について,照会先は,照会事項ごとに,これを報告することによって生ずる不利益と,報告を拒絶することによって犠牲となる権利を実現する利益とを比較衡量した上で,対応を判断すべき」であるのに、そのような利益衡量をせず、尽くすべき注意義務を怠っていたと評価された。
予見可能性や結果回避義務に関しても、被告の主張を一蹴している。
ただし、損害額は違法宣言にとどまるもので1万円のみである。
それはともかく、弁護士会の法的利益の存在といい、違法・過失の評価の判断といい、説得力のあふれる判決となっている。
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