juge:最高裁長官の選ばれ方
そしてまた、歴史的には、最高裁が保守反動に大きくかじを切ったと評されている石田コート発足時に、本命と目されていたらしい田中二郎判事は、任期途中で辞任している。その前の公務員の組合活動に対する判断がガラリと変わり、またいわゆるブルーパージの時代に入ったことは周知の通り。
ただ、それ以前にも最高裁長官が具体的事件の審理の方向性についてアメリカ大使と協議していたことが明らかになっているので、石田和外長官が決定的な転機だったとも言えないのだが。
また、小泉政権の下で急に女性判事が増えたこと、安倍政権下でもさらに増えたこと(といっても三人だが)も、それぞれ女性登用に積極的な首相の個性が入っていると思われる。
今回の寺田長官の選任過程について、御厨教授が次のように述べている。
朝日新聞(耕論)一票格差、正せるか 宮川光治さん、御厨貴さん
焦点は最高裁長官のさばきです。昨春、竹崎博允(ひろのぶ)・前長官が交代する際、最高裁は戦々恐々だったと聞きます。官邸が自分の都合のいい人、例えば政治家を据える懸念もありましたから。結局、竹崎さんが指名した3人の中から寺田逸郎さんが選ばれましたが、最高裁にすれば第一の候補ではなかったでしょう。長官への常道である東京、大阪高裁の長官の経験はないし、最高裁事務総局とも縁が薄いですから。
本当に、NHK会長とか、内閣法制局長官とか、人事を恣意的にお友達で選び、その適性などお構いなしという姿勢が目についただけに、外野からもヒヤヒヤな場面であった。
しかしそこまで極端でないにしても、最高裁長官の選任過程に内閣の意向が反映されることが改めて伝えられたことは注目である。
なお、最高裁判事の政治任用の仕組みはアメリカの連邦裁判官の任用の仕組みに表面的には似ている。違うのは、アメリカでは厳しい議会のチェックが入るし、その段階で大統領の候補指名が挫折することもあったという点で、日本のようなベールに包まれた仕組みとは大きく違う。
それでも、アメリカの最高裁の判断が時の政権の意向に沿わないということで、判事の任命を通じて政権が最高裁の判断を変えていった例として名高いのがフランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策とその違憲判断を覆すための最高裁改造計画と呼ばれるものだ。
もっとも完全に思い通りになるとは限らず、有名なウォレン長官のように、保守的な人物として選んだはずが、公民権訴訟を通じた差別是正の立役者となったという例がある。
そう簡単ではないのである。
ただ、アメリカと比較すると、憲法に書かれていない違憲立法審査権を自分であるといって確立してしまったアメリカ最高裁に対して、日本の最高裁が時の政権に対してそのように権力闘争的に振る舞えるとはとても思えず、むしろ戦前の大審院の方が政治に抗した事例が目に付くほどである。
日本では、露骨な人事介入をしなくても、どうせ意のままになると思っているのかもしれない。
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