arret:後見開始審判や倒産手続開始決定を理由とする賃貸借契約解除条項は消費者契約法違反
大阪高判平成25年11月17日WLJ、消費者法ニュース98号283頁に対する上告受理申立てが、今年の3月3日付けで認められなかった。
ちょっと長いが、原審判決文から消費者契約法10条に反し、差止を認めるとした部分の判旨を抜き出してみよう。
まず、本件解除条項の中で消費者に関係する,破産,民事再生,競売,仮差押え,仮処分,強制執行の決定又は申立てを受けたときについて
これらの事由に係る手続が,通常,債務者の金銭債務等の履行がされないために,債権者がそれを回収若しくは保全する目的で,又は債務者が債務の清算をする目的で,裁判所に申し立てられ決定される手続であることからすると,同事由は,一般的には,賃借人の経済的破綻を徴表する事由であるといえる。
しかし
(1)これらの事由は,本来賃貸借契約から発生する義務違反そのものを理由とするものとはいえない。(2)これらの事由があっても,賃借人の賃料債務の不履行の有無や程度は個別事案によって異なるものであり,そもそも賃料債務の不履行が発生していない場合もあり得。
(3)たとえ不履行が発生しているとしても,履行遅滞における履行の催告を要する程度のものである場合も含まれていることが想定される。
(4)係争物に関する仮処分のように,必ずしも賃借人が経済的な困窮に陥っていることを徴表しないものがあるし,他の事由の中にも,賃料債務の履行に直ちに影響が生じないものがあり得る。
(5)しかるに,これらを含めて上記事由が発生したという一事をもって直ちに賃貸借契約から発生する義務違反があり,賃貸借契約当事者間の信頼関係が破壊されていると評価するのは,相当とは考えられない。
要するに、賃料不払いという解除を正当化する事態が起こるとは限らないのに、その可能性もはっきりしない段階で、無催告解除をできるというのは、消費者に一方的に不利益で信義則に反するものというわけである。
さらに以下の様な理由も付け加えている。
本件新契約書16条1項には「賃貸人は,賃借人が家賃共益費等の支払を2か月以上滞納したときは,相当の期間を定め履行を催告しその期間に賃借人が履行しないときは,本契約を解除できる」旨の特約があり,それに引き続いて同条2項6号に本件解除条項があることからすると,本件解除条項は,上記要件を満たす前段階において,直ちに賃貸借契約を終了させるところに主眼があるものと考えられる。しかし,上記要件を満たす前段階において,賃貸借契約当事者間の信頼関係が破壊されていると評価するのは困難であるし,賃貸人も上記要件を満たしさえすれば賃貸借契約を解除できるのであるから,本件解除条項が無効とされた場合に賃貸人が被る不利益も,本件解除条項が有効とされた場合に賃借人が被る不利益に比して,大きいものとはいえない。
実質的な価値判断として、妥当という他はない。
成年被後見人,被保佐人の審判開始又は申立てを受けたときの解除条項については、もっと論外だという。
およそ賃借人の経済的破綻とは無関係な事由であって,選任された成年後見人や保佐人によって財産管理が行われることになり,むしろ,賃料債務の履行が確保される事由ということもできるから,これらの事由が発生したからといって,賃借人の賃料債務の不履行がないのに,また,賃料債務の不履行があっても,相当な期間を定めてする催告を経ることなく,又は契約当事者間の信頼関係が破壊されていないにもかかわらず,賃貸人に一方的に解除を認める条項も,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものというべきである。
特に後者の成年後見・保佐の開始、あるいは申立てだけであっても、解除を正当化するというのは、障害者差別ともいうべきであって、そのような規定を提案すること自体で不法行為が成立するのではあるまいか?
かくして差止が認められたのは至極当然である。
なお、原判決に関する消費者庁プレスリリース参照。
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