留学費用返還に関する裁判例
action:パイロット教育訓練費用は途中退職時に返還すべきかに関連してFBで指摘を受けたので、ちょっと調べてみた。
東京地判平成22年 4月22日WLJ
留学中又は留学終了後2年以内に退社したときは留学費用全額を返還する旨の合意が有効に存在すること及び当該合意が労働者の自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要するものとはいえないことを認定判示して、原告による留学費返還請求を全部認容した事例
東京地判平成16年 1月26日(明治生命保険事件)労判 872号46頁
一 職員留学制度の下で留学した元従業員と会社との間では、会社が大学授業料等を貸し付け、同人が留学課程修了後5年間就労した場合には返還義務を免除する旨の、金銭消費貸借合意が成立していたとされた事例。二 留学費用についての消費貸借合意は、海外留学が業務性を有し使用者がその費用を負担すべき場合には、実質的に違約金ないし損害賠償額の予定と認められるから、労働基準法16条ないし14条に違反するものとして無効になるというべきである。
三 一掲記の留学費用の消費貸借合意は、当該留学が業務性を有さないことから労働基準法16条ないし14条に反するとはいえないとして、会社の留学費用の返還請求が一部認容された事例。
この事件では、留学費用のうち駐在員と同様にかかる旅費・滞在費などは人件費に当たらないとは言えないとし、人件費には当たらないと明確に言える大学の学費を返還するよう命じている。
また、この事件の判旨二の一般論に基づけば、業務性を有する教育訓練費用を退職時に返還させるのは労基法違反ということになりそうである。
大阪地判平成14年11月 1日(和幸会)労判 840号32頁
この事件は、留学ではなく看護学校の就学費用について一定期間就労した場合は学費貸与金の返還免除を定めたものだが、業務の一環として使用者のために就学させたものであり、「就学後に労働者を自分のところに確保させるために一定期間の勤務を約束させるという実質を有するものであれば労働基準法16条に違反し、また、退職等を理由とする貸与就学資金の返還を定めた規定が、いわば経済的足止め策として就労を強制すると解されるような場合は、そのような規定は同法14条にも違反する。」と判示している。
この裁判例に従うなら、前エントリで指摘した、機長の教育訓練を別会社にアウトソーシングする形にして受講料を貸し付けるという法形式にしても、結局ダメそうである。
この他、いくつか裁判例があるので、データベースなどで参照すると興味深い。
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