jugement:DVに対して包丁で刺して死なせた事案に正当防衛を認めた判決
なかなか認められないDVに対する正当防衛が認められ、無罪判決が出た。
札幌地判平成26年1月15日
去年、札幌市西区のアパートで内縁の夫を包丁で刺して死亡させたとして傷害致死の罪に問われた被告の裁判員裁判で、札幌地方裁判所は正当防衛を認めて被告に無罪を言い渡しました。無罪判決を受けた眞銅薫さん(48歳)は去年8月、札幌市西区のアパートで酒を飲んで内縁の夫と口論となり、左肩を包丁で突き刺し死亡させたとして傷害致死の罪に問われました。
被告は、内縁の夫の暴力に対する正当防衛だとして無罪を主張していました。
16日の裁判員裁判の判決で、札幌地方裁判所の佐伯恒治裁判長は「被告は夫から一定の時間、暴力を受け続け一方的に痛めつけられていたのであり、反撃しないまま逃げることは物理的にも心理的にも相当難しかったと考えられる」と指摘しました。
そのうえで「夫の死亡という結果はあまりに大きいが、被告がとっさに包丁で突き刺すという手段を選んだことはやむを得ない」と被告の正当防衛を認めて、懲役5年の求刑に対し無罪を言い渡しました。
追記
読売の記事より
佐伯裁判長は判決で、〈1〉被告は暴力を受け続ける中、部屋から2回逃げようとして失敗した〈2〉体格差がある男性から約15分間、顔などを殴られ続けた〈3〉より危険の少ない道具を選ぶ余裕がなかった――ことなどを挙げ、「反撃の結果、不幸にも包丁が深く突き刺さったのが事件の実態」と指摘した。
この問題については、典型的なケースが、散々暴力を振るって配偶者を痛めつけた加害者が寝てしまったところを、被害者が包丁で刺し殺すというもので、これだと殺人ということになる。
上記の例では、余りはっきりしないが、現に暴力が振るわれている場面で包丁で反撃し、また刺した箇所も肩ということなので、問われた罪名も傷害致死と殺意は認められないものだった。
にもかかわらず、素手で暴力を振るうのに対して包丁で反撃すれば、従来の考え方からすると、せいぜい過剰防衛ということになりそうである。
過剰防衛であっても規定上は刑を免除する可能性があるが、現実にはそうはならないようだ。
刑法36条2項
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
従来の状況について、批判的な考察が下記文献の齋藤実弁護士によって行われている。
齋藤実「DVにおける正当防衛の成否」法執行研究会編『法はDV被害者を救えるか ―法分野協働と国際比較 (JLF叢書 Vol.21)』(商事法務・2013)259頁以下。
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