Belgique:弁護士は法廷で宗教的シンボルを身につけて良いか
フランスではライシテ(政教分離と訳されるが、もっというと公教分離)の原理から公共の場でのイスラム女子のスカーフ姿が禁止されている。
隣国のベルギーのブログ記事に、ブリュッセルでの法廷でベールをつけて弁護活動をすることができるかが解説されていた。
宗教的自由に対立するのは、ライシテではなく、弁護士の公平と独立性ということだ。
この記事によると、弁護士の法服姿は司法法典441条と1968年9月30日の王令により決められており、フランスと同様に黒絹のローブにひだのついた白い前垂れ、白い毛皮で縁取りをしたストールをこれにつけた姿となっている。
この写真はフランスのものだが、ベルギーも同様のようだ。
そして2002年11月のブリュッセル弁護士会フランス語弁護士分会の通達(Lettre du barreau, année judiciaire 2002-2003, n° 3, p. 223)では、一切の装飾をつけてはならないとして、宝石のほか、宗教的、哲学的、政治的な印を身につけてはならないというのである。
その理由は、弁護士がその職務を行使するにあたっての平等と独立の原則にあるとされ、その結果、宗教的シンボルであるイスラム教徒女子のスカーフが禁止されるというわけである。
これは法廷内での話であって、事務所内でどのような格好をするかは自由だとされているが、事務所内では法服の着用義務もないのだから、それは当然であろう。法廷以外では、法律扶助事務所(日本でいう法テラス)や刑務所での接見、書記課への訪問なども法服着用義務があるということだ。
このルールにより現実に禁止されたのは、イスラム女子のスカーフのみならず、ユダヤ教徒の丸帽子(Kippa)も適用された。
日本では、法廷の秩序は個人の行動の自由を広範に制限する理由になるとされており、特に弁護士の服装も法服はないもののせめてジャケット姿ではあるべきとのドレスコードがあった(クールビズ以前はネクタイも着用か)が、この厳格さは傍聴人にも及ぼされていて、政治的なシンボルとしての腕章やらリボンやらは禁止され続けているし、女性が帽子をかぶって傍聴することすら禁止できると考えて憚らないのが法曹界である。
しばしば問題となるのが、死亡事故が問題となる法廷で遺族が遺影を持ち込むことの可否で、これは対応が分かれていた。
このように極めて窮屈なのが日本の法廷の常識だが、例えばゴスロリなどコスプレ姿の女子(男子も)が傍聴に訪れたら、どうするんだろうかと、気になるところではある。
ところが、宗教的シンボルについては、そもそも問題視する以前なのが日本の状況だ。イスラム教徒の女性弁護士が日本で生まれたという話は管見の限りではあるが、知らない。
また傍聴人にイスラム教徒女子が訪れて、ベールを取るかどうかで揉めたことも聞いたことがない。それ以前に、例えば仏教のお坊さんが当事者となることはいくらもあるので、その方々が僧形の服装で傍聴したり証言したりということはあっただろう。ということは問題視されなかったのだと思う。
ただ、法廷で裁判官や弁護士に向かって数珠を振りかざして呪詛したりすれば、排除されるかもしれないが、これは要するに粗暴な振る舞いと同列に扱われているということだ。
東南アジアからの移民が増大した将来、ヨーロッパで起こっている文明の衝突の一コマが日本でもおこならないとも限らないが、公共の場での個人の振る舞いについての規範がヨーロッパとは大きく異なる一方、宗教的なシンボルの取り扱い方についても大きく異なるので、単純にベールやスカーフが宗教的だからイケナイという話にはなりそうにないが、それ以前の秩序維持という理由から簡単に蹂躙もされてしまうところであろう。
一番厳しい状況にあるのは、日本の刑務所の中にイスラム女子がいるとすれば、その人たちであろうか。
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