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2015/01/28

arret:確定判決の執行と仮処分の執行で板挟み

最決平成27年1月22日(平成26(許)17号=確定判決の執行)(PDF決定全文)
同(平成26(許)26号=仮処分の執行)(PDF決定全文)

諫早湾干拓事業を巡る混乱は、訴訟法的にも極めて興味深い素材を提供してくれている。

結論は、間接強制決定に対する抗告なので、実体法上の問題を扱う場ではないとして認められなかったということであり、開門せよという裁判の執行と開門するなという裁判の執行とが両方課されるという結果となっている。

そして興味深いことに、いずれの決定文にも以下のようなお説教が付言されている。

なお,本件各排水門の開放に関し,本件確定判決と別件仮処分決定とによって抗告人が実質的に相反する実体的な義務を負い,それぞれの義務について強制執行の申立てがされるという事態は民事訴訟の構造等から制度上あり得るとしても,そのような事態を解消し,全体的に紛争を解決するための十分な努力が期待されるところである。

まるで落ち着きの悪い結論になってしまって気持ちが悪いと感じた受験生が、その答案に申し訳程度に書く言い訳のような文章だ。

一体誰に「十分な努力」を「期待」しているのか、わざと明確にせず、「期待される」などと客観性を装うところも、最高裁として言えるのはここまでというギリギリの気持ちと言うかが現れている。悪く取れば無責任だが、それは酷であろう。

なお、確定判決に対する請求異議訴訟は、一審で原則として排斥されている。
→佐賀地判平成26年12月12日(平26(ワ)7号)WLJ

そして、矛盾した判断が出た原因は、確定判決において認められた漁業者の漁業行使権侵害の事実(開門しないと漁業ができなくなる)を、仮処分の審理において債務者(国)が主張しなかったことによる。
諸悪の根源のように思われた仮処分決定(長崎地決平成25年11月12日WLJ)には以下のように書かれていた。少し長いので、適宜省略する

第8 ・・・福岡高裁の前訴判決は,・・・債務者に対し,前訴原告58名に対する関係で,判決確定の日から3年を経過する日(平成25年12月20日)までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続することを命ずるものであるのに対し,本決定は,債務者に対し,債権者らのうち一部の者に対する関係で,ケース1開門(等)をしてはならないとしてその差止めを命ずるものである。

したがって,本決定は,・・・前訴の第1審被告と同一の者(債務者)に対し,前訴判決が命じた給付(本件各排水門を開放すること)とは両立しない給付(・・・開門をしないこと)を命ずるものであり,前訴判決と事実上矛盾する決定をするものである。これは次のとおりの事由による。


 すなわち,前判示のとおり,前訴判決は,潮受堤防の締切りについて,前訴原告58名の本件各排水門の常時開放請求を一定の限度で認容するに足りる程度の違法性が認められることを上記判断の理由としているところ,上記違法性が認められるとの判断をするに当たって,その枢要な根拠としたのは,「前訴原告58名は,債務者が潮受堤防の締切りをして本件各排水門を開放しないことによって,漁業被害を被り漁業行使権を侵害されている」との事実(本件各排水門を開放しないことによる前訴原告58名の漁業行使権侵害の事実)である。・・・ところが,本件仮処分命令申立手続において,債務者は,上記事実(本件各排水門を開放しないことによる前訴原告58名の漁業行使権侵害の事実)を主張しなかった(上記手続において,上記事実を主張しないことを明らかにしたものである。)。そのため,上記事実は,前訴判決においては本件各排水門の開放を命ずるにつき枢要な根拠とされたのであるが,本決定においては,上記事実を認めることはできず,これを上記各開門・・・の差止請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するに当たって,考慮することはできないものである。

 また,本決定は,前判示のとおり,上記各開門がなされれば,債権者らの一部の者が全体として甚大な被害を受ける(多数人(債権者農業者ら及び債権者漁業者らの合計267名)が土地所有権・賃借権に基づき営んでいる農業又は漁業行使権に基づき営んでいる漁業を行うことができなくなり生活基盤を失いその生活に重大な支障が生じるという深刻な被害を受けることを含む。)高度の蓋然性があるとの事実を認めるもの(そして,上記被害の発生を防止する効果がある事前対策(農業用水を確保するための事前対策等)が行われる蓋然性が高いとは認められないとするもの)であるが,前訴判決は上記事実を認めていない(乙A9,10。なお,上記に関し,前訴判決は,「潮受堤防内部の広大な干拓地において営農がされており,調整池の水がそのかんがい用水として使用されているが,・・・代替水源を確保できる可能性も考えられるのであり,上記干拓地におけるかんがい用水を確保するために潮受堤防の締切りが必要不可欠であるとまではいえない。」,「上記干拓地における営農にとって潮受堤防の締切りが必要不可欠である,又は本件各排水門を常時開放すると上記営農が破綻する・・・という事実を認めるに足りない。」旨判示しているところである(乙A10-31頁,32頁)。)。

 このように,前訴判決と本決定は,債務者に本件各排水門を開放する義務があるか否か(債務者にケース1開門,ケース3-1開門及びケース3-2開門をしてはならない義務があるか否か)を判断するに当たって,それぞれその判断の根拠とした重要な事実が大きく異なるものである。

要するに、矛盾した判断を突きつけられてにっちもさっちも行かなくなった債務者は、本来なら確定判決で認められた事実を仮処分審理において援用することで、矛盾判断を避ける事ができたのに、敢えてそれをせず(「上記事実を主張しないことを明らかにした」)、いわば手をこまねいて矛盾判断を受けてしまったのである。

国の自業自得で、間接強制は当然だ。
しかし、その制裁金は誰が払うのかと考えると、当然納税者であり、全く納得できるものではない。

確定判決で認められた事実を仮処分事件で主張しない行為は、故意に行ったものである。となれば、当然思い出すのは国家賠償法の以下の条文だ。

第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

2  前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

仮処分審理において必要な事実を主張しなかった訟務検事(または代理人)やその責任者は、故意により損害を惹起したとして、個人的に、賠償義務を負担すべきことになる。
問題は、地方自治体のような住民訴訟の規定がないので、納税者が金を出すというだけでは国賠請求もできず、1項の責任が問われない以上2項の求償権も生じないという点にある。ま、そもそも違法性が認められるかどうかも疑問ではあるが。

納税者としては、国の訴訟行為の選択によりみすみす制裁金を払わされるのを、指を加えてみるしかないということになる。

残された手段は、通常の民事紛争であれば当事者間で矛盾した判決を前提として和解により解決を図るということだが、これだけ利害が対立している問題ではそれも無理かもしれない。
だとすると、何らかの強制収用をするなり立法措置を講ずるなりして、漁業者と営農者とのいずれかの権利を喪失させてしまうということが考えられるか。

現行法の解釈適用での解決としては、上記の請求異議訴訟や仮処分取消請求において、開門請求権または開門阻止請求権の事後的な消滅を認めるということであろう。少なくとも上記の請求異議訴訟では、基準時後の事情の変動は認められていないので、諫早湾干拓事業を維持したい立場に立つ限りは無理ゲーということにもなるかもしれないが。

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