procedure:却下された控訴が3年半後に認められた
珍しく、民事訴訟手続に関する興味深い法律記事である。
本案問題は車上荒らしで保険金を請求したところ、自作自演だとして拒絶されたので、支払請求訴訟を提起したというものである。
保険金の支払いを保険会社に命じた2011年3月の大阪地裁判決を巡り、被告の保険会社の控訴が約3年半後にようやく認められた。当時は「控訴の締め切りに1日間に合わなかった」とされたが、大阪高裁は今年11月、締め切りの起算日を地裁が誤って記していたと判断した。控訴を受け入れた高裁は保険会社の逆転勝訴を言い渡し、確定した。訴訟の行方に影響した異例のミスが明らかになり、高裁は地裁を厳しく批判している。
保険金支払請求訴訟について、大阪地裁は2011(平成23)年3月8日に一審判決を言い渡し、弁護士事務所の事務員に書記官室で手渡したという。
問題はその日付であった。
地裁の報告書には、保険会社側に判決文を渡した日時は「3月8日午後3時5分」と記されていた。この記録によると、控訴期限は22日となるが、地裁は日付を確認せずに23日に控訴を受理、その後、高裁が気付いて控訴を却下した。
ところが、
地裁の報告書に「3月8日午後3時5分」と記載した書記官が同じ日の午後3時以降に休暇を取っていたと指摘。弁護士事務所が保険会社に判決文をファクス送信したのも3月9日だったことから、書記官が9日なのに8日と勘違いして記した
その結果、二週間の控訴期間満了日が本来なら3月23日で、控訴は期間を徒過しておらず適法と認められたというのである。
控訴却下判決に対しては、最高裁に上告し、上告審がミスの可能性を認めて破棄差戻判決を下した。これに基づいて、大阪高裁が上記のミスを認定し、改めて原判決を取り消して原告の主張する車上荒らしを自作自演だと認めて請求棄却判決を下した。
たった1日の違いだが、もともと控訴期限は判決送達から2週間と極めて短い。代理人と本人とのコミュニケーションも必要だし、本人が会社や団体ではその内部の意思決定プロセスを経る必要もあるので、2週間は本当に短い。
それだけに、裁判所側の対応にわずかなミスがあっても大きな影響を受ける。
今回のケースも、仮執行宣言が付いていたとはいえ、控訴却下判決の結果として支払った470万円について、原告側の無資力のリスクが生じてしまう。まあこの場合は、原告から取り返せなければ国賠が認められそうだが、そうなると納税者負担ということになる。その間の取引コストはいずれにせよ被告が負担せざるを得ない。
というわけで、裁判所のミスは、訴訟法上はこれに備えた仕組みがあるとはいえ、実際上は影響が大きいことを改めて思わせる事件であった。
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