article:米国クラスアクションと日本の破産手続
NBL1038号では、巻頭で飯村元判事がアップルv.三星事件でアミカス・キュリアエを求めた事例を取り上げているが、後ろの方にMt.Gox事件を題材としてという副題のもとで福岡真之介・菅野百合両氏の論考が掲載されている。
これが結構面白い。Mt.Goxのクラスアクションと日本における倒産手続とがどのように調整されるかをルールに則って説明されるとともに、後半では、日本の破産手続、そして消費者裁判手続特例法に基づく集団的消費者訴訟と倒産手続との関係についても触れられているのだ。
この法律については、再三紹介していて恐縮だが、以下の書籍をご参照。
福岡菅野論文では、消費者裁判手続特例法の手続段階を三つに分けて検討している。
(1)共通義務確認訴訟提起前に事業者が破産した場合
(2)共通義務確認訴訟提起後、簡易確定手続終了までに事業者が破産した場合
(3)簡易確定手続終了後に事業者が破産した場合
(1)では、特定適格消費者団体が管財人を被告として共通義務確認の訴えを提起することは考えられない。破産債権確定手続で行うしかないからである。
(2)では、破産法44条1項により中断するが、各消費者が個別に債権届出等をするしかなく、団体の業務に債権届出はない。
(3)では、届出消費者表の記載が債務名義となり、有名義債権として各消費者が届出をするが、団体による届出は弁済受領権限を含む授権があればできる。
その上で、消費者保護の目的からすると、管財人の努力と工夫次第で集団的一体的解決を図る余地もあるし、そのほうが望ましいと論じられている。
この最後の方向性には賛成できるが、上記の(1)(2)(3)の分析はやや物足りないところがある。
というのも、(2)では共通義務確認訴訟提起後から簡易確定手続終了までを一括しているが、共通義務確認訴訟で共通義務が確認された判決が確定する前と後では、状況は大きく異る。共通義務確認判決を前提に簡易確定手続で権利を行使する限り、対象消費者は時効中断の利益を享受するし、共通義務確認の判決効も利用できる。簡易確定手続により債権届出がされた後にあっては、個々の対象債権のそのような利益を保護する必要があるので、個別の債権届出に委ねるわけにはいかない。ましてや、債権届出を取り下げると言った処理はできないと解するべきであろう(これは福岡菅野論文自体が記述しているのことではなく引用されている消費者庁のQ&A87頁に書かれていることだが。)
さらに(3)も、簡易確定決定後、異議が述べられている状態と異議が述べられなかった状態とでは大きく異る。異議後の訴訟が係属してる段階で事業者が破産した場合には、簡易確定決定で認められた部分についての仮執行宣言もあり、上記の共通義務確認で認められた効果と合わせて、対象消費者が破産手続の中で時効中断、有名義債権としての扱いなどが認められる必要がある。
以上の問題と解決策の提案についての拙見は、上記の『消費者のための集団裁判~消費者裁判手続特例法の使い方』115頁以下をご参照。
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