Iran:弁護士の独立性・自治がいかに大事かを象徴する事件
弁護士の独立性、自立性、あるいは弁護士自治ということが、平和ボケの中ではその価値を忘れがちである。
たまには、こういう事件を読んで、その重要性を再認識しなければならない。
イスラム革命により政教一致の国を作り上げた国だけに、要するに近現代の常識が通じないところだが、それだけに反面教師にはちょうどいい。
ソトゥーデ氏は改革派の政治犯らの弁護に尽力したことから、「国家の安全を脅かした」として2010年に逮捕された。昨年9月に釈放されたが、司法当局は同協会に対し、政治犯の擁護を続けるソトゥーデ氏の資格停止を要求。同協会は18日、3年間の資格停止を決めた。
平和ボケの皆さんは、こんなの異常な国の出来事で、日本ではありえないでしょうとおっしゃるかもしれない。
しかし、「改革派の政治犯の弁護に尽力した」というところを「光市の母子殺害事件犯人の弁護に尽力した」と置き換えてみれば、弁護士が社会の敵と目される刑事被告人の弁護活動を熱心にやっただけで世間からどんな目で見られるか、日本も決して安心できる国とはいえないことが分かるはずだ。
あるいは昨今の政治情勢で、反日的と世間が騒ぐような行為をした者を弁護するとか、世間を敵に回して弁護活動をすることの大変さは想像に難くない。サヨク弁護士とか、人権派弁護士とか、悪口として通用する言葉になってしまっているのである。
そうはいっても政府が弁護士会に圧力をかけて弁護士資格を取り上げるなんて、日本では全く考えられないというかもしれない。
しかし現に上記の光市の事件では、第四の権力たるマスメディアがアホなタレント弁護士による懲戒申立ての扇動を許し、結果として統計的に特異なほど懲戒申立てが刑事弁護人に対して寄せられたのである。そのアホなタレント弁護士はその後政治家になっている。
その他、刑事裁判で開示された取調べ過程の録画データを取調べ可視化問題の報道素材としてテレビ局に提供した弁護士に対して、検察が懲戒申立てをしたことは記憶に新しい。
その行為に賛否はあれども、行政府の権力の一翼を担う検察が弁護士会に懲戒申立てをして特定弁護士の資格を奪おうとする行為は、皆無というわけではないし、これが初めてというわけでもないのだ。
まあ、日本でイランのようなことが直ちに起きるとは、さすがに思ってはいないのだが、それは弁護士自治が一応しっかりしているからである。
今の弁護士会のふるまいに不満がある弁護士さんたちは沢山いると思うが、それでも弁護士会による自治に変わるシステムは、今のところ全く考えられないので、弁護士会という仕組みを放棄するようなことは不幸を招くだけである。
なお、弁護士(会)のすることに一切批判をするなということではないので誤解なきよう。
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