action:差止判決の基準時が問われる訴訟
諫早湾干拓事業関連の司法の混乱は、見ていて痛々しいくらいだが、民事保全の矛盾だけでなく本訴差止判決についても目が離せない。
菅直人首相が我が意を得たりとばかりに上告しなかったために確定した差止判決だが、これに対する請求異議では何をどう理由にできるのであろうか?
通常、判決の効力は事実審の口頭弁論終結時、つまりこの場合は控訴審の口頭弁論が終結した日までに起こったことに基づいて判決が下され、それ以前の事由は判決を争う根拠に出来ない。
そこで、請求異議訴訟で確定判決をひっくり返すには、口頭弁論終結後に生じた事実関係で諫早湾干拓事業関連の差止めを否と判断する事由を主張立証しなければならない。
一般的に海洋の環境悪化が諫早湾干拓事業によってもたらされたことが根拠となって差止判決が下されたのであれば、その口頭弁論終結後に、水門を開けても環境が改善しなくなるような新たな事由が必要なのである。
水門を開けても環境が改善しないことが分かりましたというのでは駄目だし、干拓事業が環境悪化をもたらしたのではありませんでしたというのでも駄目だ。それらは基準時前の事由として、確定判決を争うのに使えない。
そんな事由が考えられるであろうか?
仮に請求異議が認められたとすると、基準時の前後を問わないで環境悪化の原因や環境改善可能性などのデータが新たに判断され、先の判決を見直すという事になりそうである。
そうすると、差止判決についての既判力のあり方は、大きく考えなおさないければならないことになる。
ということで、非常に注目の判決が12月12日に待っているのだ。
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