Politique:まさかの徴兵制
自衛隊による集団的自衛権の行使を容認したからといって、徴兵制の復活につながるというのは、随分な飛躍に思えるが、現政権の姿勢としてはあり得べき方向ではないかと疑い、不信と警戒を覚えるのは当然の発想である。
(360゜)徴兵制、まさか…ね? 政界・ネット、議論広がる(http://www.asahi.com/articles/DA3S11295129.html)
ちょっと懐かしい感のある枝野さんが5月に、「自衛隊員が何十人と亡くなることが起きた時、今のように自衛隊員が集まるか。集団的自衛権を積極行使すると徴兵制にいかざるを得ない」と発言したらしい。
これに対して安部首相は、「徴兵制につながるというとんちんかんな批判がある。徴兵制が憲法違反だということは私が再三、国会で答弁している」と述べた。
しかしこの安倍首相の発言には全く重みがない。憲法には徴兵制を禁ずる規定はなく、「徴兵制が憲法違反だ」というのは解釈にすぎないのだ。
そして、政府が再三明言し、強調してきた憲法解釈でも時の首相が変えたいと望んだら変えられてしまう、そのことをまざまざと示したのが「集団的自衛権の行使容認」という憲法解釈の変更であり、安部首相が今、何を言おうと、要は閣議決定で変更するといえば「徴兵制は憲法に違反しない」という解釈にいつでも変えられるということになる。
安倍内閣が行った集団的自衛権の行使容認という憲法解釈の変更は、つまり、内閣=行政府の憲法解釈の移ろいやすさを現実のものとして示し、その憲法解釈に対する信頼感を根底から失わせたわけである。
その当の安部首相が「徴兵制は憲法違反」だから安心してくださいと、どの口が言うのかということになる。
ちなみに、徴兵制を禁ずるような文言が憲法にないのは当然で、憲法はもともと軍隊を持たないことを前提としていた。だから軍隊の人材供給方法としての徴兵制はそもそもあり得ないと考えられていた。
しかし、みんな知っているように、事実上の軍隊である自衛隊が法律上は存在し、そのことは憲法に違反しないと解釈されているのであるから、その人材供給方法がどのようなものになるのか、志願制か徴兵制かは、憲法が関知するところではない。
徴兵制のように国の役務に従事することを国民が義務付けられる法律は、では憲法違反か?
思いつくのは職業選択の自由の保障(22条1項)が立ちはだかりそうだが、一定期間の軍役であれば「職業」の選択を強制しているとは言いがたいし、この条文には公共の福祉の留保がある。軍隊が保持されることを容認する社会では、軍隊こそ公共の福祉の最たるものとなりそうである。
ちなみに、一定期間、正当な理由がない限り、国の役務に従事することを国民に義務付けた法律としては、ご存知裁判員法がある。
もちろん裁判員法には、義務規定はないのだが、一方では「裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から、この節の定めるところにより、選任するものとする。」と規定し、他方では欠格事由や就職禁止事由の他に辞退事由を定めて、辞退できる場合を限定列挙しているわけであるから、それ以外の場合は「義務」として裁判員の職務を行使しなければならないのであろう。
制裁規定としては、不出頭についての過料の規定があるのみではある。
他方で、憲法には13条の幸福追求権があり、18条には「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」との規定がある。
特に、意に反する軍役従事はこの規定に反するので、徴兵制は(この点からも)違憲だと考えられている。これは私もそう思う。
ただし、そうだとすると自衛隊の職務が「奴隷的拘束」または「苦役」に当たるものということになるが、これには異議が出そうだ。現に、あの、石破自民党幹事長のプログで次のように述べられている。
まず第13条について、外部からの侵略から国の独立と平和を守ることこそ「最大の公共の福祉」です。国の独立と平和無くして「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利の尊重」などありえません。 第18条も、兵役を「奴隷的拘束」と同一視するのはいかがなものか。さらに、志願制ではなく徴兵制である点を「意に反する」ことにウエイトを置いて否定的に解釈していますが、兵役に「犯罪に因る処罰」と同じ評価がなされていることは極めて問題です。
石破氏は、憲法解釈として徴兵制は憲法違反とはいえないとしつつも、技術的政治的にはあり得ないという立場を表明されており、それはそれで意味のある言説だ。
しかし、上記の安倍首相の「憲法違反」だから安心してという発言には、集団的自衛権の憲法解釈変更を主導した立役者の一人が真っ向から異を唱えているわけである。
というわけで、冒頭に書いたように、現政権の姿勢としては、いつか徴兵制もあり得べき方向ではないかと疑うのは根拠の無いことではない。
不信と警戒を覚えるのは当然である。
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