penalcourt:トリカブト殺人事件の冤罪疑惑は司法取引導入への警鐘
トリカブトを使って殺害し、保険金をだまし取ったとして死刑判決を受けた元被告人の事件について、被害者が溺死だったという鑑定結果から再審が通りそうな雲行きとなっている。
埼玉県本庄市の連続保険金殺人事件で殺人などの罪に問われ、最高裁で死刑が確定した八木茂死刑囚(64)の再審請求審で、保存されていた被害者の一人の臓器を再鑑定したところ、「死因は水死」とする結果が出たことが8日、分かった。弁護団が明らかにした。
この事件には色々な教訓が含まれている。
比較的最近の刑事事件でも、しかも死刑判決が確定した事件でも、冤罪の可能性が現に存在するということが改めて示された。これは袴田事件でも同様だが、死刑が執行されてしまった飯塚事件でも足利事件と同様の冤罪可能性があるのである。
改めて人間の行う刑事裁判には誤りが避けがたく、これをもって被告人を殺す判断をすることの不確実性、我が身に置き換えてみれば、まかり間違えば見に覚えのないことで逮捕起訴され最後は殺されてしまう可能性があることに思いを致すべきである。
またこの事件では共犯者の自白が決め手の一つになっている。その共犯者の手記が出版されている。
仮に八木元被告人が一部でも冤罪だとすれば、共犯者の自白に頼る事実認定がいかに脆いものか、こんなにも赤裸々に語る共犯者の自白も虚偽という可能性があること、このことを改めて認識すべきということになる。
そしてこのことは、先日日本にも導入することが決まった司法取引の危険性もクローズアップする。自分が助かりたいが故に他者の犯罪を告白することが、司法取引という名で制度化されようとするわけだが、その共犯者の自白は、上記の通り、アプリオリに信頼できるものではないのである。
所詮は供述証拠であり、人質司法の下で強制された証拠である上、自分が有利になるようにしたいから他人のせいにしたいというインセンティブに強く影響されている。つまり虚偽を積極的に述べる可能性は、「自分がやりました」というよりはるかに高い。
もちろん、司法取引により真相が解明されるということはたくさんあるだろうし、現行法の自首規定のように自ら罪を認めた者に刑を軽くすることはあってもよい。しかし、その供述が不確かだという前提認識がなければ、冤罪はこれからも減らないし、増える恐れもある。
力を入れるなら、客観的な捜査手法の充実強化であり、供述証拠録取の可視化によるせめてもの客観化である。
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