edu:意欲測る入試
聞こえの良いスローガンだが実行は困難という典型例なのが、この意欲ある人材を入れるという入試だ。
知識量よりも考える力を重視する。各大学の個別試験も、学習意欲や、どんな高校生活を送ったかなど、能力を総合的に評価することが求められていく。
この記事によれば、基本的な知識の有無を問うのが中心の現行入試から、教科ごとの枠にとらわれない総合的な問題を出すとか、高校時代に頑張ったことの申告を評価に加えるとか、模索されているという。
しかし、こうした試み、即ち知識の量ではなく基本的な学習意欲や学習能力を測る入試に転換し、意欲ある人材を入学させ、入学後の教育課程においても自発的能動的な学習活動によって能力を開発し、独創的で優れた人材育成を行うという試みは、過去いくども試みられてきたものであり、その試みの上に今日の入試があるといえる。
共通一次の導入時も、基本的な知識は共通一次によって測り、各大学が実施する二次試験では知識偏重な試験ではない選抜方法を試みるという話であったはずで、北大法学部では二次試験を英語と小論文のみとするという思い切った改革を行った。
その結果、素晴らしい人材が入学したという話は、個人的にはあると言いたいところだが、一般的にはそのような評価はなく、やがて数学も二次試験科目に加わり、分離分割方式となった後は定員を絞った後期入試に小論文が残るだけで、定員が多く原則的な入試と位置づけられている前期入試は普通の科目試験である。
AO入試と呼ばれる入試方法も、もともとは一発か二発のペーパーテストでは測れない意欲ある人材の発掘を、年間通じて採用活動をすることによって達成しようという試みであり、常設のアドミッション・オフィスが志望者に様々な課題を何度も出して、1年近くをかけて選抜していくという発想のものだった。従って、いわゆる高大連携とも結びついて、相当のコストが投入されるべき選抜方法のはずだった。
しかしこれが形骸化すると、青田買い的効果を期待して選考の前倒しに利用され、安上がりにやろうとすれば手間のかかる課題ではなく単なる自己推薦の書面の提出になり、その結果、何らの選抜効果もないということになれば結局最低限の学力を担保する必要から大学入試センター試験の受験を義務付け、要するにセンター試験のみで選考するけれども願書受付はやたら早い青田買い効果だけが残るという目も当てられない選抜方法になってしまった。
近いところでは、ロースクールの入試方法がその典型とも言える。共通一次に似た発想で、共通の適性試験を義務的に課し、そこでは法律を学んでこなかった受験生も公平に扱うという理念の下で法律の知識は問わない、それどころか特定の専門分野に有利にならないような試験とするべく、分析、論理、読解、表現力という四部構成のテストが行われている。
各大学の個別入学試験も未修コースでは法律の試験成績を加味してはならないとされ、既修コースではそれが許されているので、未修と既修とではアドミッション・ポリシーが全く異なるという事態となっている。
ちなみにここでも意欲ある人材、真面目に取り組む姿勢、潜在力などが、入学後の学習を担保するという理念に支配されているので、適性試験の他に、いわゆる入学志望理由書の記載、出身大学の成績、社会的な活動歴、法律以外の分野での業績や資格などを重視するという選考方法が採られた。これに面接と小論文という、ある意味ではお決まりの課題を課すというわけである。
その結果、優秀な人材が未修者コースに沢山入学し、既に法律を学んでいた既修者コースのレベルに1年で追いつき追い越し、優秀な法曹となることが出来たという所期の目標を達成できたかというと、残念ながら、平均的には全く達成できなかった。
もちろん例外的に優秀な人材はいるし、与えられた期間(3年+5年)を有効に使って最終合格に至った個性ある人材もたくさん存在するのだが、それは例外的というべきであり、平均的には極めて苦戦を余儀なくされてきた。
その原因を論じると長くなるが、結果的に失敗であったことは否定しようがない。
ともあれ、準備期間も入れて10数年に及ぶロースクールの実験のうち、入試に関しては、「知識ではなく意欲を」というスローガンの魅力と困難を味わった歴史といえる。
ということで、何度も失敗を味わってきた入試改革は、多くの大学人からは懐疑的に見られるわけである。
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