PTA会費返還請求訴訟
日本も訴訟社会化しているというか、裁判制度が気軽に利用できることは民訴学者としては好ましい、望ましいことであるのだが、以下のような訴訟はどうだろう。
子どもが通う小学校のPTAが任意団体であるにもかかわらず、強制加入させられたのは不当として、熊本市内の男性(57)がPTAを相手取り、会費など計約20万円の損害賠償を求める訴訟を熊本簡裁に起こした。男性が2日に会見して明らかにした。
PTA会費の返還ということではなくて損害賠償ということだが、実質的には会費を返還せよということになりそうだ。
訴状によると、2009年に2人の子どもが同市内の公立小学校に転校した際、PTAに同意書や契約書なしに強制加入させられ、会費を約1年半徴収されたと主張。これまでもPTA側と話し合ってきたが、平行線だったという。「PTAは原則、入退会が自由な団体なのにもかかわらず、なんの説明も受けなかった」と指摘。12年に退会届を出したが、「会則の配布をもって入会の了承としている」などとして受理されなかったといい、「憲法21条の『結社の自由』の精神に反している。会則には入退会の自由を明記するべきだ」と訴えている。
元PTA会長さんとしては、困ったことだなぁというのが率直な印象だ。
というのも、PTAは任意加入団体であって、親と先生とが自発的に参加し、学校と親との橋渡しになったり、親同士の親睦を図ったり、学校の時間外利用の管理をしたり、子どもたちのために学校予算とは異なる財布と意思とで本や教材を買ったり、場合によっては地域社会における一つのグループとして地域ぐるみの運動会やお祭りの運営主体の一つになったりと、その公共的な性格は顕著だ。
加えて予算も、学校ないし先生からの支出があったりするし、その使い道を考えるのは学校と生徒児童の全体の利益を図らなければならず、この点でも公的な性格は顕著だ。
でも法的な裏付けがあるわけでもなく、学校や教育委員会規則で当然加入が規定されているわけでもない。
すると建前としては入退会自由な団体であるが、実態としては日本人の同調圧力に弱い体質を全面的に利用して、強制加入団体として振る舞ってきたといえる。
しかも地域によってその位置付けは違う。私の個人的経験では、北海道などは学校の御用団体的な活動をする親の集まりだが、名古屋では地域社会における青年会とか壮年会などと並んで存在する子ども会の運営主体だったりする。
一概には言えないが、同調圧力に依拠した強制団体というのは結構普遍的ではなかろうか。
その曖昧で建前と本音が乖離している極めて日本的なシステムに、司法の場で白黒つけようじゃないかというわけだから、誠に困ったものだなぁということになる。
| 固定リンク
「法律・裁判」カテゴリの記事
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- 民事裁判IT化:“ウェブ上でやり取り” 民事裁判デジタル化への取り組み公開(2023.11.09)
- BOOK:弁論の世紀〜古代ギリシアのもう一つの戦場(2023.02.11)
- court:裁判官弾劾裁判の傍聴(2023.02.10)
- Book:平成司法制度改革の研究:理論なき改革はいかに挫折したのか(2023.02.02)
コメント