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2014/07/17

arret:DNA関係に基づく親子関係不存在確認が嫡出推定に勝てない事例

(1)最判平成26年7月17日=平成24年(受)第1402号PDF判決全文

(2)最判平成26年7月17日=平成26年(オ)第226号PDF判決全文

(3)最判平成26年7月17日=平成25年(受)第233号PDF判決全文

この3件は、すべて、法律上の嫡出推定による父子関係がDNA鑑定に基づく生物学上の父子関係によって覆されるかという問題なのだが、(1)と(3)とは多数意見3人に対して金築裁判官と白木裁判官の二名が反対意見をつけている。しかし(2)だけは、全員一致で、上告を棄却している。
どうしてか?

ヒントは上記の事件番号にある。

(オ)というのは通常上告事件に付けられるもので、(受)というのは上告受理申立事件に付けられるものだ。

通常上告では、憲法違反や手続違反などが理由として挙げられる。これに対して上告受理事件は重要な法律解釈の誤りを理由として挙げられる。
要するに、(2)の高松高裁に対する上告事件は、法律解釈適用の誤りを理由として主張しなかったのだ。その結果、以下のような判断で全員一致となった。

民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出子であることを否認するためにはどのような訴訟手続によるべきものとするかは,立法政策に属する事項であり,同法777条が嫡出否認の訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を持つ制度であって,憲法13条に違反するものではなく,また,所論の憲法14条等違反の問題を生ずるものでもないことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和28年(オ)第389号同30年7月20日大法廷判決・民集9巻9号1122頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民 事129号353頁)。論旨は採用することができない。

2 その余の上告理由について

論旨は,違憲並びに民訴法312条2項4号及び6号に掲げる事由をいうが,その実質は事実誤認若しくは単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,同条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。

この高松事件は、たまたま、原判決もDNA鑑定より嫡出推定による父子関係が優先するとの判断だったので、その結論が維持される上告棄却判決であり、他の二件の破棄自判と実体的な判断は一致している。
そして上告理由が民訴法312条の規定に合致しないという点では、実体的にDNAによる真実を優先することを主張した金築裁判官と白木裁判官も、反対意見を述べていない。

そういうわけで、(2)判決だけ全員一致になったのは、判断の対象が異なるからである。
そして、最高裁判決の意義・射程を考えるにあたっても、単純に上告を退けたということが原判決の判断内容を支持したということを意味しないということも、反対意見がつかないということから、体感できる事例ということができる。

内容的な論評は、解釈論的には多数意見が妥当と言わざるをえない。
現行法は、血縁関係を必ずしも法的な親子関係の必要条件としていないし、今回の判決で十分条件でもないということが改めて確認されたにすぎない。
今回は父子関係であるが、母子関係に至っては、分娩という事実のみで母子関係を決めるということなので、他人の卵子をもらって人工授精で出産したことが明らかである場合でも、卵子提供者ではなく分娩した人を母と決めるというのが従来の裁判例であった。

しかし、補足意見の岡部櫻井裁判官と山浦裁判官も述べているが、立法論としては大いに議論の余地のあるところである。DNA鑑定が安定した家庭を壊すのではないかというおそれから、今回のような既に壊れた家庭における母の元夫と血縁上の父とが法的な父の地位を巡って争っている場合も親子関係不存在確認を認めないということであれば、血縁上の父子関係(母子関係も)を理由に法的親子関係を問題にできる事例を限った例外規定を設けるということも考えられる。
判例法としてもその方向に一歩立ち入っていることは認められるが、ここはやはり立法の役割である。

7/30:人づてにご指摘を頂き、裁判官の名前を訂正しました。

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