jugement:蒼国来栄吉勝訴判決
大相撲の蒼国来が八百長疑惑で解雇されたのに対し、解雇無効確認と給料支払を求めた訴えについて、既に昨年3月判決が下されて、蒼国来は土俵に戻っているが、裁判所サイトに判決文が掲載された。
主文が珍しい。
原告と被告との間において,原告が被告の幕内力士の地位にあることを確認する。
この幕内力士の地位を確認する利益があるかどうかについては一応判示されており、幕内力士であることで給与の額が決まるので、その地位を確認する利益はあるとされている。
また、本判決が力士と日本相撲協会との契約の性質をどう解釈しているかの判示も興味深い。
原告は雇用契約であると主張し、被告は準委任契約だと主張したが、裁判所はいずれも採らず、以下のように判示した。
本件契約は,取引法原理になじみ難い側面も含む複合的な要素を有するものであると指摘することができる。これらの点に,そもそも相撲自体は古代からあり,また,江戸時代の勧進相撲が現代の相撲社会の基礎をなしているという相撲の歴史,すなわち,力士と被告の関係(相撲部屋制度,師匠との関係も含む。)は,民法制定以前から存在する関係が基本となっていると考えられることも併せ考慮すると,本件契約が,原被告主張のよ うに,当然に民法の典型契約である雇用契約や準委任契約に該当するものであるとみることは困難であり,むしろ,上記の点に照らせば,本件契約は, 有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当であ る。
さて、処分の効力については、まず無気力相撲を行ったかどうかが疑わしいので、処分は無効であること、仮に無気力相撲を行ったとしても、それで引退勧告処分までは有効だとして、引退勧告に従わなかったことをもって解雇処分とすることは問題があること、そもそも力士は引退するかどうかの判断権を有さないのであるから、引退勧告に従うということもできないはずであることから、引退勧告に従わないことを理由とする解雇処分はできないという。
加えて、八百長自体は蔓延していて協会はそれを排除しようとしてこなかったのであるから、仮に蒼国来が無気力相撲を行ったとしても、そのことでの解雇には相当性はないという。
なかなか読み応えのある判決であった。
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