culture:文化財に強制執行を禁止する法律
強制執行を禁止するということをもって「明るい法律」とカテゴライズするのは自己撞着なきらいもあるが、でも明るい。
国交のない日本に所蔵品を持ち出した場合、中国当局に差し押さえられる可能性を台湾側は危惧していた。実現の決め手となったのは、日本側が故宮展のため制定した新たな国内法だった。
わずか6箇条のこの法律、中心的な規定は以下のような第3条である。
(海外の美術品等に対する強制執行等の禁止)第三条 我が国において公開される海外の美術品等のうち、国際文化交流の振興の観点から我が国における公開の円滑化を図る必要性が高いと認められることその他の政令で定める要件に該当するものとして文部科学大臣が指定したものに対しては、強制執行、仮差押え及び仮処分をすることができない。ただし、当該指定に係る海外の美術品等を公開するため貸与した者の申立てにより強制執行、仮差押え及び仮処分をする場合その他の政令で定める場合は、この限りでない。
2 前項の指定(以下この条において単に「指定」という。)は、我が国において海外の美術品等を公開しようとする者の申請により行う。
3 文部科学大臣は、指定をしようとするときは、外務大臣に協議しなければならない。
4 文部科学大臣は、指定をしたときは、当該指定に係る海外の美術品等について、文部科学省令で定める事項を公示しなければならない。
5 文部科学大臣は、指定に係る海外の美術品等が第一項本文の政令で定める要件に該当しなくなったときその他政令で定める場合には、指定を取り消すことができる。この場合においては、前二項の規定を準用する。
6 前各項に定めるもののほか、指定又は指定の取消しに関し必要な事項は、文部科学省令で定める。
このように、行政庁の判断で指定されたものについて司法作用の強制執行の効力が及ばないとすることには、三権分立との関係が気にならないことはないが、立法趣旨としては望ましい法規定と思われる。
もっとも、強制執行禁止の指定は所有権者の権利を直接否定することでもある。この法律が念頭に置いているのは中国という外国国家が日本法に基づいて強制執行や仮処分などをすることだが、執行債権者が中国と限定されているわけではもちろんない。
また、禁止される執行も「強制執行、仮差押え及び仮処分」とあるので、金銭執行も対象にされている。立法趣旨が外国国家による所有権に基づく執行なのだとすると、そこに限定しているようにも見えない。金銭執行であっても日本に持ち込むことの阻害要因になるということであれば、外国国家が所有権を主張して法的手段を採る場面以外にも行政庁の判断で権利行使を抑制するということになるが、それは正当なのか?
海外の、それも外国国家ではない存在が日本に貴重な文化財を持ち込むことを可能にするという立法趣旨は望ましいとしても、その想定場面があまりに無限定に過ぎるのではないか、台湾とは異なる存在が海外文化財を盗んできたときに、日本での展覧会実施をこの法律によって可能にすると言った運用ができてしまうのではないかという懸念は一応ある。
思い出すのは、日本の寺から盗み出した仏像を押収したのに、もともと自国のものだと主張して返そうとしない某国の姿である。
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