news:ストーカー殺人事件
事件の経緯は次の通り。
大阪市平野区の路上で2日未明、飲食店従業員のYさん(38)が刺殺された事件で、大阪府警捜査1課と平野署は同日午後、殺人容疑で、Yさんが勤務する店の客だった同区長吉長原西、無職T容疑者(57)を逮捕した。
TはYさんにストーカー行為を繰り返したとして警告を受けていた。調べに対し、容疑を認め、「Yさんが好きだった。このままでは会うこともできない。Yさんを殺して自分も自殺したら、あの世で一緒に暮らせると思った」と供述している。
Yさんとは昨年8月、店の客として知り合った。一方的に好意を寄せるようになり、執拗に電話やメールをして、今年2月に店を出入り禁止になった。
3月1日には「殺される前に警察に電話してや」などとメールを連続で送り付け、Yさんから相談を受けた松原署はストーカー規制法に基づき、Tに口頭注意した。しかし、その後もメールをやめず、同月12日に文書で警告を受け、「もう関わらない」と約束していた。
その注意と警告の経緯については、府警がストーカー事件の「危険性判断チェック票」で被害者の相談に基づき、危険度の高い順にA~Cの3段階に分ける体制の中で、Yさんの相談をBに分類し、生活安全課員のほか、凶悪事件を扱う刑事課員も加わり、Yさんに脅迫容疑などでの告訴や避難を要請したという。しかしながら、Yさんは事件化を望まず、「家族がいるから避難できない」と話したことから、口頭注意や文書警告にとどめたというのである。
その結果、4月2日には、電話連絡した際に被害がないと回答があったため、危険度をより低い「C」に格下げ。規定に基づき月1回程度の定期的な確認連絡に切り替えたところで、上記の殺人事件に至った。
この経緯を見て、果たして最悪の結果を避けるためには何ができたか、何をすべきであったかを考えることが必要だ。
少なくとも上記の記事を見る限り、府警は被害者の相談を軽く見て「なんかあったら言ってきて」と追い返したりはしていない。従来の警察のストーカーやDV対応は、この入口のところで留まっていたように思われるので、その点は評価できる。
まともに取り上げたときに、被害者の意思をどう扱うか、どこまで尊重するか、そこのところが課題として突き付けられている。
刑事警察としては、被害の発生に対して犯人の検挙が任務であり、まだ犯罪を犯していない人に予防的な対策を施すことは越権行為だ。このことは、この事件のような被害が出た文脈で言うと、いかにも言い訳にしか聞こえないが、一般的には全く正しい。警察が、危なそうだという見込みに基づき強制手段を用いることが許されるというのは、原理的に間違っているし、現実にも極めて危険だ。何しろ何もしていなくてもしょっぴかれて隔離されてしまうということになるのであるから。
これに対して犯罪捜査以外を任務とする行政庁が何をできるか、警察も行政庁の一つとしてどのようなことができるかは、原理的な問題ではない。ただし、人権侵害のおそれは同様につきまとう。
今思いつくのは、民間の被害者支援団体に被害者のサポートを依頼したり紹介したりすること、そのためには被害者支援団体に対する公的な支援も必要となる。
他方でストーカーに対しても、犯罪捜査以外の手法として注意・警告を行っているが、ストーカーを医療機関に連れて行くとか、そのための民間団体を支援するとかといったことが必要となる。
その他は、情報通信技術を用いた被害者保護手段も考えられる。
こうした手段を尽くして、それでも被害が出てしまうことは考えられるが、だからと言って被害を少しでも防止できる手段を尽くさないという理由にはならないのである。
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