民訴教材:公示催告じゃなくて公示送達と再審
教科書事例かと思われるニュースが現れた。
記事によれば、2010年9月に高知県在住のXがYに対して、400万円の貸金返還請求訴訟を提起した。その際Xは、Yの住所が不明であるとして公示送達の申立てをして認められ、訴状送達の効力が生じた後に、同年12月、Yの債務を認めて全部認容判決が下され、11年1月に確定した。
付記:タイトルが恥ずかしいことに公示催告になってましたが、公示送達の誤りです。
Yは同年5月、債権差押命令の送達を現に受領したことで初めて判決を知り、同年6月、地裁へ再審請求したというわけである。
男性(X)側は「判決後に(会社員(Y)の)住所が判明した」などと主張したが、地裁は「提訴時から住所に関する情報を知っていた可能性がある」として昨年1月、再審を認めた。
絵に描いたような確定判決の不当騙取事例のようだが、現在の公示送達のシステムでは原告が被告の住所を調査し、住所が不明であることを裁判所に納得させる資料を提出すれば良いので、巧妙に工作されれば見破れない。姿をくらましてしまえば民事裁判から逃れられるというのでは、無法者をのさばられることになるので、それもマズい。
というわけで、こうした事態を完全に防ぐことはできない。
もっとも、貸金返還のような契約紛争では、いずれかの時点での相手方住所は判明しているであろうし、通常は住民票が連続しているので、例えば裁判所が調査嘱託により市町村から個人情報を取得できれば、そうそう嘘の住所不明という申立ては通らなくなる。仮にマイナンバー制度となって、様々な行政情報が集まるようになれば、調査可能性はもっと広がるだろう。
訴状提出段階で、被告に送達する前に、その送達先を裁判所が職権で調査するというのは少々理論的に落ち着かない気分にさせられるが、実例はある。そしてその実例は、原告の訴え提起を可能にするという意味で原告の便宜を図ったものである。
これに対して公示送達申立ての中で市町村へ照会するのは、被告の手続保障のために調査嘱託をするというのであるから、より一層、認められてよい。現状の実務でどこまで行われているか、よくわからないのだが、文献に現われているところでは、必ずしも裁判所が調査嘱託により市町村からの情報を集めているというわけではなさそうである。
公示送達において、虚偽の住所不明の報告による申立てを防止するためには必要なことと思われる。
なお、以上は公示送達事案に限った話であり、原告が被告を捜索するのに裁判所を利用することを野放図に認めるわけではない。
ただし、DV被害を受けて逃げた配偶者の一方に他方が何らかの訴えを起こして、裁判所に現居住地を捜索させるために用いるということも考えると、またまた落ち着きの悪い事になるので、行方不明事例の法的扱いはいずれにしても難しいのである。
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コメント
紹介の事案がどのような経過をたどって公示送達に至ったのかは報道からは分かりませんが、自然人である被告に対する公示送達の申立てをする原告には、被告の住民票なり戸籍附票なりを自分で取得させて(裁判所が市町村役場に調査嘱託するのではなく)、その場所に被告が所在していないことの調査結果を出させるのが通常の扱いだと思います。
でもって、住民登録のある場所に住んでいない人って、結構多いのですよ。
正確な住民登録をしないでいると、過料の制裁もあるのですけれどもね・・・。
投稿: えだ | 2014/03/17 20:50
調査嘱託は、訴訟当事者が自分でとれるもの(この場合は、住民票)であれば、なされていないのが原則のはずです(というか例外をほとんど見ない。いっとき、オレオレ詐欺系のときにあったような気もするが・・・)。
本人訴訟の場合であっても、裁判所の「補正の促し」等の書類が原告に交付されるので、これを添付して原告が市役所等で交付を受けることになる。
訴状記載の住所地へ特別送達→不在等で返送→休日送達→裁判所から原告へ被告の送達先を調査するよう連絡(住民票をとれるように「補正の促し」なども交付されるのはこの段階)→(あれば)就業場所へ送達(又は、住民票を取って新たに判明した住所地へ郵便送達)
といった具合です。
債務名義への記載も送達を全くしていない住所を記載するということはないのが原則ですから、何らかの形で原則形態をすり抜けたのではないでしょうか(おそらく原告側の調査報告書が添付されていて、訴状記載の住所地には居ないことが自明であるとして郵便送達が飛ばされた。が、執行裁判所は原則どおり郵便送達をして発覚。これら一連は記録上明らかであることから再審が認められた・・・といった具合であろうか。)。
投稿: ・・・。 | 2014/03/22 03:43