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2013/12/15

Book:いま「憲法改正」をどう考えるか

樋口陽一先生の自民党憲法改正草案に対する論評である。


樋口先生は言うまでもなく正統的な憲法学者であり、立憲主義の系譜をしっかりと示してくれる。

戦前の憲法をめぐる議論についても、以下の様な言葉が紹介されている。

井上毅「立憲政体ノ主義ニ従ヘハ君主ハ臣民ノ良心ニ干渉セス」
伊藤博文「憲法ヲ創設スルノ精神」とは、「第一君権ヲ制限シ、第二臣民ノ権利ヲ保護スルニアリ」

伊藤博文の上記の言明は、森有礼の権利条項不要論に対するものであったが、その森有礼の論拠は天賦人権説に立ち、憲法においてはじめて臣民の権利が生じるものではないはずというものだったわけである。

憲法が国民の義務を定めるという自民党憲法改正草案の発想は、いかにも前近代的というべきであろう。

戦後の憲法状況においても、個人の解放がテーマとなっていたと樋口先生は書かれる。この個人の解放は明治の知識人たちが苦しんだテーマでもあり、夏目漱石の個人主義、中江兆民の人間個人の精神の自立論、小野梓の「一団の家族を以て其基礎となす社会」ではなく「衆一箇人を以て基礎となす社会」を目指す立場など、明らかであった。これこそは日本国憲法13条「すべて国民は、個人として尊重される」と趣旨を同じくする考え方であり、日本国憲法が体現した価値である。

樋口先生は、こうした個人の尊重という明治以来の観念が「自民党「改正草案」の家族国家型の発想と、鮮やかな対照を見せている」と評される。

そして、自民党憲法改正草案そのものについても、天皇の元首化、戦争放棄から安全保障と国防軍へ、表現の自由と公益・公序との逆転、政教分離と社会的儀礼や習俗の許容性明示、公務員の労働基本権に対する制限の明文化、前文から人類普遍の原理の削除、個人から人へ、社会の自然かつ基礎的な単位としての家族の重視、憲法の尊重擁護義務を負う者の変質、緊急事態に対する協力から義務へ、憲法改正の容易化、こうした諸点について批判的に検討している。

その上で、自らのご意見を述べられている。

憲法改正を論じるには不可欠な参考文献である。

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