news:お馬鹿な従業員は店を潰した損害も賠償しなければならない?
馬鹿発見器として威力を振るっているTwitter、外食産業の従業員が不衛生な行為を行い、店が謝罪するという話が多発しているが、ついに従業員の行為により店を閉じると宣言するところまで現れた。
発端となったのは次の写真のようで、一応、お節介かもしれないが、目を隠しておいた。
これに対する店側の店舗退店のお知らせpdfには次のような一節が書かれている。
なお、不適切な行為を行ったアルバイト従業員に対し、本件に関する損害賠償の請求についても 検討しております。
いったいどこまでの損害賠償を負わなければならないだろうか?
上記リリースに基づけば、当初は一時休業して店内清掃の上で再開する予定だっただろう。
その間の逸失利益や清掃に係る実費、再開のためのリリースなどはまあ、損害として従業員に請求するということがあり得るかもしれない。もちろん逸失利益の全てというわけにはいかないだろうが、上記の写真の代償はそれなりに大きいと思われる。
しかし閉店となれば、客が来なくなった分の逸失利益とは別次元の損害が経営にかかってくるだろう。出店形態とか店舗の財産関係などにより異なるだろうが、賃貸借であればその解約に伴う損害、他の従業員の雇用打ち切りがあればその損害などである。
そういった損害の一切合財がお馬鹿なアルバイト従業員に請求できるかという問題だが、必ずしもイエスというわけではない。
法的には、当該従業員が故意・過失により経営者に損害を与えたということで不法行為となるか、あるいは雇用契約上の債務不履行責任となるか、いずれも成立するであろうが、いずれも損害賠償の範囲は通常損害、あるいは相当因果関係の範囲内ということになっている。
そして、例えば不法行為により信用が毀損されたというケースで、経営者が経営の継続を断念するに至った場合でも、それが直ちに元の不法行為と因果関係ありとされるわけではない。
例を一つ、東京地判平成21年11月19日から挙げよう。出典はウェストロー・ジャパンのデータベースである。
被告との間でフランチャイズ契約を締結した原告が、被告に対し、被告が消費期限切れ原料を使用して商品を製造したことが発覚し、消費者の信頼を損ねる信義則上の保護義務違反があったなどと主張して、債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案において、被告にはフランチャイズ契約に付随する信義則上の義務違反があったと認めたものの、原告が営業を再開しないことを決断し、フランチャイズ契約を解除したことは、原告代表者の経営判断として決定したものというほかなく、営業を再開しなかったことにより得られなかった利益は、被告の債務不履行と相当因果関係がある損害とはいえないとして、請求を棄却した事例
従業員の行為による場合と、フランチャイザーによる場合とでは大きく異るともいえそうだが、経営者が経営を維持できるために配慮すべき義務の大きさは、従業員の場合よりもフランチャイザーの場合の方が大きいと言えそうである。
また、従業員の労働契約上の債務不履行による損害賠償の範囲については、信義則上の限定も課せられている。これは使用者責任を追及された経営者が従業員に求償する場合の話だが、経営者が従業員の不法行為責任を追及する場合についても同様に考えられている。
従って、店舗を畳むという上記の経営者の判断も、それは経営判断として行われたのであって、お馬鹿なバイトの行為と直接の因果関係はありとはいえないので、それに伴う損害賠償までは請求できなさそうであり、さらに信用毀損に伴う逸失利益についても、信義則上は、バイトに請求できる額が相当程度制限されるということになるだろう。
上記の事案について全て通じているわけではないので、以上はあくまで一般論だが、お馬鹿な行為により重大な結果が引き起こされたとしても、その全てをお馬鹿な行為者の責任にするわけにはいかない。
もちろんだからといってお馬鹿な行為をしてよいということではなく、それなりの損害賠償は覚悟しなければならないし、刑事的に責任を追及される可能性は別途存在するので、許されるお馬鹿な行為の範囲はくれぐれも慎重にすべきではある。
付記:http://www.ttcbn.net/no_second_life/archives/35774
バカやって、そのバカをひけらかしても、せいぜい町内で有名になるくらいで、それを越えて有名になることなどできなかったし、バカ行為に対する制裁も程度をわきまえたものだった。ネットはその範囲と程度を壊してしまったので、同じようにバカをやっても、今はひどいことになる。
尾崎豊がバイク盗んでタバコ吸いながらビースポーズでTwitterに写真あげてたら、歌なんか作ってられなかったろう。
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コメント
Twitter上で馬鹿なことが他人に晒されることの評価は別として、私がこの手のニュースを見聞きしてまず思った事は、ネットが個人に社会規範を遵守させる機能を持っているということでした。
そして同時に頭をよぎったのがフーコー『監獄の誕生』です。太陽の光を利用してマジックミラーのように囚人から看守の見張り位置が見えないようにしながらも、実はそこに看守はいないまま、囚人が監視されていると思いながら牢屋でおとなしくしている。この他に近代国家においては、学校や工場などにも『見えざる権力』が働いているというものです。
SNSにもフーコーの言う『見えざる権力』が働いていると思いますが、それが国家のために働いているのか、そうでないかという点に相違点があります。
馬鹿なことをする事はたしかに若者の特権だと思いますが。それがSNSによる私刑によって出来なくなる事の批判はさておき、SNSがソフトローの性質を持っている点は特筆すべき点と言えるのではないでしょうか。
現代社会では規範というものを国家・地方自治体の制定した法や条例といったハードローに依拠するよりは、むしろ仲裁や調停、交渉といった当事者間での規範遵守、紛争解決がまず第一に望まれる傾向が強まっているように感じます。
法の目的としての効果を人々に浸透させる工夫が日常生活の随所にも散見されます。
個人的にSNSによる私刑は刑法上の可罰的違法性があるとは言い難く、訴えの利益や訴訟要件で言う当事者適格性の有無についても問題があるのではなかろうかと思うのですが、いずれにせよネットを使う若者にも分別弁えて使用する必要があると思います。尾崎豊は私も大好きな曲で、高校の頃振られた時にはシェリー、受験競争に背を向けたくなった時にはBow!、大学進学のため地元を離れた時には坂の下に見えたあの街など耳が聴こえなくなるほど聴いたものですが、15の夜などのように「バイク盗んだった」などとつぶやくのをよそうということだと思います。
投稿: 金光誉樹 | 2013/08/17 17:39