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2013/08/16

DV被害者が裁判員になることのメリット・デメリット

こんな表題を掲げると、各方面からいきなり怒られそうではあるが、一応、一般市民が裁判員としての経験を積むことにはメリットが有るとされているので、それはDV被害者にもある。

また、DV被害者と言っても、その被害の程度、現状、被害の時期などは様々であり、特に時間の経過とともに客観的な状況は変わるし、他方で心理的な傷は中々変わらなかったりするので、被害者と一括りにすることはできない。

従って、DV被害者であることを一律に裁判員欠格事由とすることは考えにくいが、そうすると次のような事態が起こる。

読売(Yahoo!)DV被害の女性、地裁が裁判員候補の除外認めず

記事からうかがわれる事実関係を時系列順にまとめると以下のようになる。

昨年5月、宮崎地裁はAさんに対して、ある事件の裁判員候補になったとして、実家に呼出状を送付。
これには辞退希望の有無、理由の適否を判断するための質問票が同封され、問合せ先の電話番号も付記していた。
        ↓
Aさんからは回答がなく、Aさんの父親から宮崎地裁に、除外を求める手紙が送られた。
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これに対して宮崎地裁は、本人からの申立てでなかったことから、Aさんを不出頭と判断した。
        ↓
昨年10月、再度、宮崎地裁が別の事件の裁判員候補者としてAさんに呼出状を送付。この時も回答はなく、宮崎地裁は不出頭と扱った。
        ↓
本年7月、過料の制裁を受けることを心配した父親が宮崎地裁に問い合わせor指摘をして、これに宮崎地裁が謝罪をした。

この事実関係ではやや不明なところもある。Aさんの住民票住所(選挙人名簿)に、年初に候補者名簿に載ったことが通知されるはず(裁判員裁判法25条)で、その時は誰が受領したのか?
実家に呼出状が送られたということは、その時点で住所が実家に移っており、そのことを裁判所も知っていたということのようだが、そうだとすると、年ごとの候補者名簿調整段階で既に住民票住所は実家となっていたのであろう。
本当は、その時点、候補者名簿登載の時点で免除されることができればよいが、DV被害者であることから免除を求められるのは16条8号の政令で定めるやむを得ない事由ということになるだろうから、裁判員候補者として呼び出された段階でしか考慮できない。

ということで上記のケースのように呼出状を受けて対応し、その時点で辞退できる場合に当たるかどうかを判断するのは当然であった。

問題があったとすれば、父親からの手紙に対して本人の申し出ではないからと、それ以上の対応もせずに不出頭と扱ったという点だが、地裁からすれば「不出頭」扱いをしたからといって特段の不利益が課されるわけでもないので、問題はないと判断したのであろう。実際、不出頭を理由に過料を科されたケースはまだないはずである。
しかし過料の制裁を受ける可能性があると言われた方は、心配するのも当然である。そして、建前を重んじる限り、これはAさんとその父親の方に分がある。法律上の正当な理由があって辞退の申し立てをしているのに、正当な理由があるかどうかを審理せず、いわばそれを認めなかったわけだから。しかも、そのような取扱いを正当化するのに、不出頭の制裁は発動されていないということを持ち出すことは、少なくとも地裁の立場からはできない。

ということで、この段階での父親の申し出をまともに扱わなかった点が問題なのだが、それ以上に、DV被害者の場合には裁判所の情報共有のあり方も問題になりそうである。

このAさんのケースが、例えば保護命令の申し立てをしていたのかどうか、離婚訴訟や家事審判手続が係属していたのかどうか、全く明らかではないが、仮にそうした手続が先行していたケースだったとすると、その方面からの配慮があってしかるべきではなかったかという問題である。
現状では、保護命令を発令する地方裁判所と、離婚等を扱う家庭裁判所との間に一定の情報共有はあるようだが、これと裁判員裁判を扱う刑事部とが連携することも必要なのではないか。
仮にAさんがDV被害者として申立てをしていたり、あるいは離婚手続の中でDV被害を主張していたという情報が共有できていれば、宮崎地裁の刑事部が父親からの手紙を受け取った時点でも対応が異なったであろう。

もちろん情報の共有には、それをどうやって実現するのか、かえって差別的取扱いにつながるのではないか、漏洩リスクが拡大するのではないかと、様々な心配がつきまとう。しかし、DV被害者として配慮されるべき場面で配慮が欠けた扱いを受け、その結果、二次被害を受けたり加害者に追跡されたりといった事態につながる可能性もある。一方では秘密保護を要する情報を、他方では広く共有するという矛盾した要請であるから、その方法は極めて難しいかもしれない。
安易なIT万能論もかえって怪しく感じられる今日このごろで、個人データベースに付記というのもリスク克服が難しいかもしれない。

それでも、裁判所内部での手続に一般市民が関わるのは限られた場面なのだから、せめて、その範囲内では要配慮フラグを立てる程度のことをしてもよいのではないか。

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