Book:法服の王国
これも少し前から話題になっていた、日本の裁判所ノンフィクション小説である。
司法権が、戦後の冷戦期と55年体制を背景として、以下に保守的統制的に振る舞ってきたか、その直接の犠牲者として青法協の熱心な推進者を冷遇し、場合により排除してきたか、ところがその一方で妙にリベラルなところのある司法官僚の権化「弓削晃太郎」とその後継者たる「津崎守」らによる揺り戻しが平成司法制度改革に結びついたこと、直接的には「津崎守」の影響として描かれているが、最高裁事務総局の統制に冷遇されてきた判事たちのあるときからの復権の様子など、同時代的な歴史が生き生きと描かれている。
弓削晃太郎という人物は、司法官僚の権化のように目されていながら、最高裁長官として陪審制の調査研究を行い、後の裁判員制度導入につながる道を開いた矢口洪一長官がモデルとなっている。その彼と、上記の津崎守(名前からはなんとなく現長官を彷彿とさせるが)と、その他の架空の脇役とが繰り広げる人事抗争も、色を添えているというところであろう。
もう一つ、この小説では原発訴訟が一つの柱となっており、3.11が小説の終局を飾るエピローグとなっている。石原慎太郎ならずとも、天罰という言葉が想起される。ただし、天罰を受けたのは民衆ではなく、ついぞ原発の危険性を直視することができなかった日本の裁判所に対してだが。
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