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2013/07/14

consumer:他人が自分になりすましてカードを作り借金した。払わなくてはならない?

答はもちろんNoだが、自分名義のカードを他人が自分の名前を勝手に使って作成し、それによって借金をしたという場合に、請求は名義を使われてしまった本人に行く。
寝耳に水であったとしても、訴えが提起されれば、応訴しないと欠席で判決がなされ、責任が認められてしまう。そんな瀬戸際に追い込まれるのだ。

大阪簡判平成24年11月8日消費者法ニュース94号109頁、WLJ文献番号2012WLJPCA11086001

この判決は正にそうしたなりすましでのカードローンが実行されて、なりすまされた人に請求が行ったケースだが、驚くべきは、こうした請求をすること自体、不法行為だとして応訴により被った損害の賠償を求める反訴が認容されていることである。

判決文からは、住所が正確に書かれていないため、カード発行時の経緯が余りはっきりとはわからない。が、ともかく、被告住所と同一の洲本市内の架空住所を記載した国民健康保険証が偽造され、それをインターネットを通じて、楽天銀行と楽天カードの口座開設兼カード発行に何者かが用いた。
そして、そのカードは洲本市の架空住所に送られたが不在となり、勤務先の大阪市西成に転送されて受領された。受領後、すぐに50万円が借り出された。

約2ヶ月後に返済がなく、楽天カードが被告を相手に返還請求訴訟を提起したが、その住所は被告本人のものであったようで、不在のため送達は戻され、再度、楽天カードの上申により被告の就業場所への送達がなされたというのである。

この辺りがよくわからない。バンク一体型カード申込書(甲1)に記載の住所(兵庫県洲本市物部)にカードが送られて不在持ち帰りとなり、その際になりすました何者かが受領するため勤務先を西成とする再配達希望が出されているのだから、その住所地の郵便受けはなりすました何者かが管理していたのだろう。
だとすると、訴状記載も、被告の本当の住所地ではなかったようにも思うのだが、訴状送達は被告住所地にあり、しかも被告の就業先も調査可能だったようなのだ。この辺りの経緯はよくわからない。

それはともかく訴状は無事被告の元に届き、第1回口頭弁論で身に覚えがない事を述べ、ようやく借主が被告でないことが判明した。
そこで原告・楽天カードは訴えを取り下げようとしたが、被告は同意せず、かえって訴訟提起を不法行為だといって賠償を求める反訴を提起した。
本人確認義務を怠り、当然知り得た人違いを看過して本件訴訟を提起したのは違法だというのである。

以下、判決文を引用する。

本件国民健康保険は偽造されたものであること,被告は本件国民健康保険記載の住所に住民登録をしたことがないこと,原告は本訴提起後まで被告の本人確認情報を入手していないこと,本件カードは甲1号証記載の住所では受領されず,転送されて被告の勤務先がない大阪市西成区で受領されていること,原告は甲1号証と楽天銀行が保管する本人確認資料を取り寄せて対査することなく,また,被告に直接接触することも,被告の住民票を取り寄せることなどもなく本訴を提起したことなどの事情のもとでは,原告は,甲1号証のみに依拠して,被告と本件カード名義人との同一性について全く調査もせず,訴訟提起後になって初めて本訴請求の根拠となる本人確認等に関する証拠を収集するなど事実確認をすることなしに被告を契約者と決めてしまい,極めて簡単に事実関係を明らかにする方法があり,それを利用しようとすれば容易にできたのに,利用しないまま,原告に対し訴訟を提起したものであり,その落度は,それだけでも相当に重大であるというべきである。

(中略)
本件のようなインターネットによる契約の申込みにおいては,通常の場合に比し,第3者による成りすましが行われやすいものであるから,被告の契約意思の確認には特に注意が必要であると考えられるところ,本訴提起前に楽天銀行が保管していた本人確認資料や被告住民票を取り寄せるなどして総合的に検討すれば,成りすまし等の疑いを生じさせるような事情が存在するか,少なくとも本人確認には通常の場合に比し特に注意が必要であると考えさせるだけの事情はあったというべきである。この点も考えると,原告の落度はより重大なものと評価されることになる。

結果、弁護士費用と慰謝料を併せて25万5千円の賠償を原告・楽天カードに命じる判決となった。

オンライン取引におけるなりすましのリスクは、オンライン取引を自己都合で採用しているカード会社の側にて負担すべきであり、それは単に詐欺被害を被るというにとどまらず、なりすまされた人に無用な応訴を強いる訴え提起に及ぶのなら相応の注意を払ってなりすましかどうかを調査すべき義務があると、そのような趣旨の裁判例である。
カード会社には厳しいようにも思えるが、しかしなりすまし被害の排除を行えるのは、当該なりすまし契約の当事者となるカード会社(+銀行)だけなのであり、なりすまされた人が被害を防ぐことはほとんど無理である。そう考えると、社会的コスト低減の観点からも、オンライン取引で契約をする事業者が広い意味でのセキュリティ保持義務を高度に負うというのが正しい結論だと考えられる。

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