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2013/05/03

law:女性だけにある再婚禁止期間

憲法記念日に憲法とは関係のない話だが、一応は憲法14条の問題でもある。
岡山の作花弁護士のブログによると、女性の再婚禁止期間を憲法違反だとする訴訟について、最高裁に上告されたそうである。

問題の条項は民法733条の規定だ。

(再婚禁止期間) 第七百三十三条  女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。

2  女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。

性別による差別を禁止している憲法14条の下で、そもそも女性のみを対象とする法規定自体が珍しい。
検索してみたところ、「女は」で始まる条文はこの民法733条のほか、婚姻適齢を定めた731条しかなく、「女性は」で始まる条文は労基法67条の育児休憩の保障、そして「女子は」で始まる条文は母子及び寡婦福祉法施行令と皇室典範にしかない。
(無論、係助詞「は」を使わずに女性についてのみ特例を定めた法令は他にあるかもしれないが)

その中で特に、再婚禁止期間の定めは、女性のみに結婚というおめでたい出来事の制限を課すものであるから、不満も多く、憲法違反だとする主張も多かった。

そんな中、作花先生の訴訟は、憲法違反の規定により生じた損害の国家賠償を求めるものとして提起され、一審岡山地裁では「憲法に違反するものでないと解する余地も十分にある」と判断されていたところ、控訴審広島高裁岡山支部では単に憲法違反ではないとされた。
作花先生は、一審では憲法違反の可能性がゼロでないというニュアンスであったのに、高裁は後退したと評価されている。
そこで、今回作花先生が代理人として最高裁に上告されたわけである。

同じ問題については既に、最高裁が判断を示していた。
最判平成7年12月5日集民177号243頁(PDF判決全文

上告人らは、再婚禁止期間について男女間に差異を設ける民法七三三条が憲法一四条一項の一義的な文言に違反すると主張するが、合理的な根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法一四条一項に違反するものではなく、民法七三三条の元来の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解される以上、国会が民法七三三条を改廃しないことが直ちに前示の例外的な場合に当たると解する余地のないことが明らかである。したがって、同条についての国会議員の立法行為は、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではないというべきである。

上記判決は、「父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある」という民法733条の立法趣旨が「合理的な根拠に基づいて」いると言っているわけだが、民法の規定は確かにそのようになっている。
すなわち、民法772条は、1項で「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と定め、2項で「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と定めている。
つまり、できちゃった婚(授かり婚)の場合に、婚姻届提出後200日経過後に生まれたならば、めでたく嫡出推定を受けることになる。
ところが、前の結婚の解消(離婚など)の日から300日以内に子どもが生まれたとすると、その子は前の夫の子と推定されるので、婚姻解消してすぐに別の男性と結婚し、200日経過後300日以内に子どもが生まれたとすると、前の夫の子としても推定されるし、後の夫の子としても推定されてしまう。
このような場合には民法773条の父を定める訴えが用意されているが、子どもの父親が誰かを決めるのに訴訟をしなければならないというのは避けたい事態だ。

そこで、民法733条で離婚等の日から再婚の日まで6ヶ月(180日)のバッファを置き、推定のバッティングが起こらないようにしているのである。

問題は、このような法律の制度が「合理的な根拠に基づいて」いるかどうかである。
現在の親子関係の科学的な認定は、昔とは比べ物にもならないほど制度が上がっている。

昔の親子関係、特に父子関係の認定は、性交渉の有無と血液型による遺伝的親子可能性が一応の確かな事実であり、その他に考慮されていたのは人類学的特徴(つまり似ているとか似ていないとか、指紋・掌紋などの類似性も)に加え、可愛がっていたかどうか、おむつの交換をしたかどうかなど、父親としての愛情を示したかどうかなども考慮されていた。
例えば、最判昭和31年9月13日民集10巻9号1135頁(判決全文PDF)は、以下のような事実から父子関係を認めた。

「被上告人は昭和11年頃上告人の母Dと情交関係を生じ以来約3年間1ヶ月3、4回宛これを継続し、その後は稍この関係は遠のいていたが、昭和18年1月9日頃Eホテルにおいて情を通じた。しかるにDはその頃姙娠して医師の分娩予定日であつた同年9月30日に上告人を分娩したのである。そしてDは昭和17年12月25、6日頃より月経があり、その後に姙娠したのであるから受胎可能期間は昭和18年1月3日頃より同月10日頃迄の間となり同月9日頃被上告人との間に性交があつたとすればそれは受胎可能期間中に相当すること明白であり、またABO式、MN式、Q式、S式、E式、Rh式、V式の各種血液型の検査並に血清中の凝血素価と凝集素の分析の結果から見ると、被上告人と上告人との間に父子関係があつても矛盾することはないのである。しかも被上告人は昭和18年2月頃Dから姙娠の旨を告げられ、その後分娩までの間、数回Dを訪ねており、出産の当時は上告人を見て自己の子でないと言つたこともなく、上告人を抱擁し或はむつぎを取替えるなど父親としての愛情を示したことがあるばかりでなく、分娩費、生活費の一部を負担しているのであり、また年少時代からの知合であつたDの姉Fに対して、Dの妊娠につき男として責任を持つ旨言明したことがある

この判決では、原審が鑑定で人類学的特徴が似ていないとされ、親子関係を否定したのに対し、上記のような事実(懐胎可能期間中の性交の事実、血液型の不背馳、愛情表現等)から親子関係を認めることを妨げるには足らないと判断した。

このような、ある意味では曖昧な根拠に基づいて、父子関係という重大な身分関係を決定しなければならなかったという時代状況の下では、可能な限り、父子関係が法的に明確に定められる制度としておく合理的な根拠があったというべきである。

しかし、時代は代わった。血液型鑑定ももちろん制度が上がっているが、DNA型の鑑定の登場と精度の向上は目覚しい。もちろんこれらを盲信すると思わぬ落とし穴(足利事件とか、飯塚事件とか)にハマることもあるが、少なくとも正確な鑑定のための手順を履践するならば、抱いたことがあったりおむつを替えたことがあったりというような事実関係からの認定に比べると、問題にならないくらい確実性が高まっているといえよう。

そのような時代において、上記の嫡出推定のルールを前提とする再婚禁止期間の設定は、しかも女性だけに課せられる制限は、合理的根拠があるといえるか?

ただし、この問題には、法律婚を前提に家族の関係を早期に安定させるという制度の一部を改変するだけに、法律婚と嫡出推定という制度枠組み自体の変更につながるかもしれないという側面もある。
離婚後すぐに他の男性と結婚したい場合というレアケースの救済にとどまらず、その場合に父子関係が嫡出推定ではなく遺伝的な関係での決定をデフォルトとするのであれば、法律婚に重きを置かない発想の人々からすれば、そもそも法律婚とそうでない男女関係とで父子関係の認定ルールが全く異なるのはおかしいという話になる。

これには法律婚を何よりも大事に思う人々から反発が予想されるが、それは別としても、親子関係の早期安定という事からすれば、なるべく紛争を予防するために、6ヶ月くらいは待てよ、というのもそれなりに合理性がある気がする。

しかし、嫡出推定ルールによる父子関係の認定が、父子関係をめぐる紛争を予防できるかというと、それも難しくなってきており、男女・夫婦の関係も、事実上も規範的にも、昔とは違うのではないか、その中で嫡出推定ルールは合理的か、という疑問は禁じ得ない。
例えば、できちゃった婚(授かり婚)が道徳的にケシカランという意識がほとんどなくなり、当たり前の事になった時代、婚姻から200日経過後でないと嫡出推定が生じないというのは、人々の生活実態とかけ離れているのではないかということである。

そういうわけで、定見がない問題だが、興味深い問題であり、平成7年最高裁判決の変更に至るかどうか、注目である。

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コメント

どちらかというと、法律上の婚姻関係をどこまで重視するかという問題のように思います。
科学的証拠についていえば、母親の(元)配偶者なり、父親と考えられる人物の存命中は良いのですけれど、稀に、そのような人物の死後に(相続問題を契機として)誰が親かが問題になることがありますから、科学の進展は決め手になりずらいかと。

投稿: えだ | 2013/05/08 20:49

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