France:集団的消費者被害回復訴訟法案の内容
昨日速報したフランスの消費法典改正案だが、フランス語では読めないという声が聞こえてきたので、集団的消費者被害回復訴訟の法案の部分を読んでみた。
集団的消費者被害回復訴訟に関する部分は消費法典第4巻第2編第3章として制定される。速読なので誤りがあるかもしれないので、
消費法典に「集団訴権 Action de groupe」と題する章を設ける。
この訴権は、認証を受けた消費者団体が個々の消費者の損害回復のために、事業者に対して訴えを提起するというもので、対象となる事件は、物品販売や役務提供の際の法定または約定の義務違反により、消費者に財産的被害をもたらした場合の損害賠償請求である。
もう一つ、競争制限行為から消費者に財産的損害を与えた場合の賠償も請求できるが、これには競争制限行為であることの認定をあらかじめ受ける必要がある。
消費者団体が事業者に対して、集団訴権を行使して訴えを提起すると、裁判官は、事業者の義務違反行為を認定した場合に「責任判決」を下す。この責任判決において裁判官は、対象消費者の集団がどの範囲に及ぶのかを定義し、その対象消費者の個別の損害額を決定するか、または損害評価要素を決定する。そして消費者が損害賠償を求めるために、集団に加入するための期間と方法を定め、消費者が直接事業者に請求するのか、あるいは団体を介して請求するのかを定める。
この判決は、控訴、上告が可能で、不服申立ての途がなくなると確定する。
確定すると、事業者の費用負担で個別の消費者に責任判決の存在を知らしめる通知を、あらゆる適切な方法で行う。これに基づいて、責任判決で定められた条件の元で、個別の対象消費者は集団に加入する。
責任判決で認められた賠償を事業者が任意に支払わないときには、責任判決を下した裁判官がその紛争を裁判する。この裁判で認められた請求権の強制執行は、消費者団体が行う。
なお、責任判決を求める訴えの代わりに、調停を利用することもできる。成立した調停合意は裁判官が認可し、消費者に通知がなされる。
その他、責任判決を求める訴えは個々の消費者の訴権の時効中断をもたらし、責任判決や認可された調停合意は手続に参加して賠償を受けた消費者に既判事項の権威(既判力)を持つ。
集団に加入した消費者は、この集団訴権の対象とならない損害賠償請求権を失うことはなく、別途請求できる。
一つの消費者団体がある事業者の特定の義務違反行為に基づく集団訴権を行使して判決を得た後は、同一事業者の同一義務違反を理由とする集団訴権は受理されない。
以上の規定は、法律部(L)であり、デクレに相当する下位法令が細部をつめるのだろうと思われる。日本の集団的消費者回復のための訴訟法案(これは消費者裁判手続特例法案と略称されるようだが)に比べると、条文数も極めて少ない。
とはいえ、骨格は日本法案の二段階訴訟と、責任判決が確定し、清算段階でも紛争は裁判で解決するという構造は極めてよく似ている。複数の消費者団体が同一事業者に対する訴えを提起する可能性があるところも同様で、判決確定後は不受理事由になるというところも同様だ。
もっとも二団体が同時に訴えを提起した場合の処理は書かれていない。場合によっては二重起訴として却下されるのかもしれないが、その点は不明である。
日本法とはっきり異なるのは、消費者に対する通知費用が事業者負担となっている点だ。
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