大阪の母子餓死事件、これもDV被害の結果か
報道(大阪の母子遺体 夫のDVで別居か 実家にも居場所伝えず孤立)によれば、以下の様なことらしい。
大阪市北区天満のマンションで母子2人の遺体が見つかった事件で、母親の井上充代さん(28)が数年前、夫から配偶者間暴力(DV)を受けていたことが27日、大阪府警天満署などへの取材で分かった。井上さんは夫と別居してマンションに移ったが、自身の実家にも居場所を伝えていなかった。夫に居場所を知られないようにするためとみられる。行政に支援を求めた形跡はなく、頼る相手もいないまま孤立を深めた可能性が浮上している。
誠にいたましくて、何と言って良いか分からないくらいだが、DVから逃げ出した人、特に女性が貧困にさらされ、これに対して必要な援助がないという現実を直視する必要がある。
よく、DV冤罪みたいなことをいい、DVだと声を上げるのは欲得ずくであり、離婚で好条件を得るため、特に子どもの親権争いで有利になるために言っているんだという主張がなされることがある。
これは、例えば同居中の配偶者の一方が調停の席でDVを言い立てているという場合には、そのようなこともあるかも知れない。DV保護命令の申立てがなされたという場面でも、一般的抽象的には可能性としてあり得る。
しかし、DV被害者が安定した家庭を捨てて逃げ出したという事案においては、およそ現実離れした抽象的危惧にすぎないのである。
そのことは、身一つで逃げ出した先がどんなに困難な生活になるか、安定した家庭を捨てることがどんなに覚悟が必要なことか、想像してみれば分かりそうなものである。
そしてあくまで抽象論から出ようとしない人は、上記の報道を見て今一度考えるべきだ。報道の内容が事実だとすればという仮定の下だが、DV被害者が逃げ出すことの最も不幸な結末の象徴的である。
そのような危険を覚悟の上でもなお、逃げ出さざるを得なかったという暴力の存在は、シェルター等に逃げ込んだ人たちのほとんどに共通するものなのだが、保護命令を発令する裁判官や、場合によっては代理人となるはずの弁護士さんたちにはそうした想像力を働かせることが出来ない場合がままあるようだ。
その上、外見上の「元気さ」にだまされ、しかも直接被害者に接しているという自負からか、申立人の多くが戦略的な申立てをしている自称被害者の可能性があるなどと言ってはいないか?
こうした認定上の問題は、下記書籍の特に139頁以下に関連する。
また、上記の記事から出てくる第二のポイントは、福祉の貧困である。
DV防止法には、以下のような条文はあるが、独自の福祉措置はない。
3条3項 配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のため、次に掲げる業務を行うものとする。
4号 被害者が自立して生活することを促進するため、就業の促進、住宅の確保、援護等に関する制度の利用等について、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。
8条の3 社会福祉法に定める福祉に関する事務所は、生活保護法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法その他の法令の定めるところにより、被害者の自立を支援するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
かくして、緊急時の避難は手当していても、その後の生活再建については基本的に一般の社会福祉に頼ることになる。例えば公営住宅の入居についても、なにがしかの優遇はあるが、なにがしかにとどまる。生活保護による当面の生存維持ですら、地方により大きく格差があるし、保護命令とは連動せず、水際作戦を繰り広げる自治体ではDV被害者にも厳しい。
そして生活保護申請手続を重くしようという法改正案は、こうした状況をさらに悪化させるに違いない。
この行政的な支援の現状の問題点は、上記書籍の324頁以下が詳しい。
憲法25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定し、国の役割として同2項に「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定している。
DV被害者かどうかにかかわらず、上記記事に現れた事案は、貧困問題が深刻化する中で、この責務を国(および自治体)が果たしていないということに他ならないのである。
改善を求めたい。
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コメント
この事件は役所の怠慢に起因する。
生活保護の必要のない強面の不正受給者に生活保護を支給し、本当に必要とする気の弱そうな
人には支給しない。役所のチグハグな対応と怠慢に問題・責任がある。
役所の改革が必要だ。公務員の給与を半分にし生活保護の財源にすること>
投稿: 阿部 | 2013/05/30 00:01