Book:表現の自由とメディア
多産な田島泰彦先生の編集に係る著書であり、ネット時代のメディアのあり方と表現の自由を扱っている。
収録されている論稿の中で、個人的に興味があるのが韓永學氏(北海学園大学法学部教授)の「インターネットにおける人権侵害の救済---反論権を中心に」というものであった。
反論権は、表現の自由と被害者救済とを両立させ、かつ言論自体を量的にも質的にも豊かにするという結果も生じるので、まことに理想的な解決手法のように思われるが、従来のマスメディアを前提にして、メディアに対する表現の強制につながるという反論もあった。
インターネット上の表現については、むしろ、被害者も含む各ネット利用者の表現行為の容易性から、反論権という形で他者に反論文掲載を強いる必要性が否定される。
しかし、これに対しては容易に予想されるところだが、サイトの伝播力に顕著な格差があり、個人のブログや掲示板、各種SNSなどに反論を載せたとしても、被害を生じさせた名誉毀損等の情報が掲載されたサイトの伝播力と匹敵する力を持つかどうかは、保障の限りではない。
また、対抗言論により名誉回復を目指すのには限界があり、権利侵害がエスカレートするおそれもある。
かくして論者は、インターネットにおいても反論権の適用が是認される余地があるという。
具体的には、反論権の客体をインターネットプレスに限定し、反論権が成立する実質的な要件と手続を定めることを提案している。
もう一つ、読んで興味深かったのは、浮田哲氏の「テレビ番組制作現場の構造と自由---「現場の自由」の視点から」という論稿だ。
こちらは、いわゆる業界人なら常識に属するのかもしれないが、テレビ制作が局と制作会社との二重ないし三重構造になっている中で、主に視聴率的関心から来る局の番組制作への理不尽な介入が蔓延していること、その中では特殊かもしれないが、政治的圧力を受けた番組改変もあったことなどが豊富なアンケート調査や各種事件の報告書類から明らかにされる。
論者の主張は、「現場の自由」を、外部制作会社やフリーランス・ディレクターのレベルで実現していくことこそ重要というものであるが、そのための具体的な方向性は必ずしも明確でない。論者は、そのいうところのレベル1,すなわち局のプロデューサーやディレクターのレベルがレベル3の現場ディレクター等の意思を最大限に尊重するべきというのだが、そのための制度的な枠組みには立ち入って検討されていないという限界がある。
このテレビ番組制作における現場の自由という話は、司法の独立をめぐっての、司法権の独立と裁判官の独立とがしばしば矛盾するという話を思い起こさせるので、その意味でも興味深い事例である。
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