Bankruptcy:否認の対象は破産者の行為を要するか?
破産法164条第1項の規定により否認することのできる「第三者に対抗するために必要な行為」は,破産者自身の行為に限られるものではなく,破産者が有する債権について債権譲渡がなされた場合における当該債権の債務者による承諾行為についても否認権行使の対象となると判断した事例
破産法的には伝統的かつ典型的な論点の一つである、否認権行使の対象に破産者の行為であることを要するかという問題に、釧路地裁の否認請求決定が新しい判断を下した。
上記の引用部分がすべてを物語っているが、この点に関する最高裁判例は、決定文の中で引用されている最判昭和40年3月9日民集19巻2号352頁(pdf)が反対の趣旨、すなわち債務者の承諾行為は破産者の行為でないので否認の対象にならないと判示していた。
否認しうる対抗要件充足行為も破産者の行為またはこれと同視すべきものにかぎり、破産者がその債権を譲渡した場合における当該債務者の承諾は同条による否認の対象とはならない
釧路地裁は、これが旧破産法の下での判例であるから、今は射程が及ばないとしているが、その点は明らかに強弁というべきである。現行法は破産者の行為の要否について立法的処理をしていないし、対抗要件否認の条文は基本的に旧法を引き継いでいるのである。
それはともかく、「破産者の行為またはこれと同視すべきもの」という限定は、通常は破産者の協力・加功があることを最低限必要とするものと解されている一方、「その効果において」破産者による対抗要件具備行為と同視される債務者の承諾も否認の対象となるとする見解もあり、事実上、破産者の行為は不要と解する立場が結構有力なところだ。
釧路地裁の新判断が新たな判例形成につながるのかどうか、興味深いところである。
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コメント
50代の弁護士だと最高裁の40年判決にしばられてしまいそうです。勇気ある原告とそれを許容した破産裁判所と認容した一審裁判官に敬意を表します。
投稿: 岡本哲 | 2013/06/01 05:05